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2025.10.15

受け継ぐ曲線美 挑戦の果て 竹工芸×現代アート — 四代田辺竹雲斎ちくうんさい

博物館隣接の茶室「伸庵」に展示した「双界」について語る四代田辺竹雲斎=いずれも大塚直樹撮影

「茶の湯」を大成した千利休の出身地・堺市では、幕末~明治期、喫茶文化が隆盛した。文人がたしなんだ煎茶道では、茶席に飾る花をいける竹製の花籠が貴ばれ、専門の技術者「籠師かごし」が堺に集まる。中でも初代田辺竹雲斎ちくうんさい(1877~1937年)と初代前田竹房斎ちくぼうさい(1872~1949年)は茶道具を独創的な芸術作品へと発展させた。前田家は二代で途絶えたが、田辺家の名跡を継いだ四代竹雲斎(52)は、竹工芸の伝統技法と現代アートを融合させたインスタレーション(空間芸術)で国際的に活躍している。(編集委員 坂成美保)

〔2025年〕9月20日、世界遺産・大山だいせん古墳(仁徳天皇陵古墳)に隣接する大仙公園(堺市堺区)内の茶室「伸庵しんあん」に、竹を編み上げた巨大なインスタレーションが完成した。

2間の茶室のふすまを取り払って設置された作品のタイトルは「双界そうかい」。現世うつしよ常世とこよ、現在と未来……二つの世界がつながっていることを、2本の管がうねりながら絡み合い、天井へ広がる姿で表現した。

四代田辺竹雲斎

たなべ・ちくうんさい 1973年、三代竹雲斎の次男として堺市に生まれる。東京芸術大を卒業後、三代竹雲斎に師事。2017年に四代竹雲斎襲名。代々受け継いだ花籠などの竹作品の制作を続けながら、フランス国立ギメ東洋美術館、米国・メトロポリタン美術館など世界各地で、インスタレーションを制作。受賞歴に21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、大阪文化賞など。

米国、欧州始め世界各国の美術館で作品を展示する四代竹雲斎は、明治から3代続く堺の竹工芸の家に生まれた。代々伝わる編み方の技法「竹雲斎七技しちぎ」の一つ、粗い編み目の「荒編み」を用いて、巨大な作品を手がけている。

小学生の頃、遊びで竹籠を編んでいて途中で行き詰まった。「貸してごらん」と祖父・二代竹雲斎が鮮やかな手さばきで、あっという間に完成させたのが「荒編み」だった。「まるで魔法のように」完成した籠を見て、子供心に「これはアートだ」と感じた。

「書に楷書と草書の違いがあるように、竹の編み方にも年輪とともにそぎ落とされた美がある。晩年の祖父の作品はまさに草書の美でした」

田辺家には〈伝統とは挑戦なり〉の家訓が伝わる。伝統も同じことを繰り返せば廃れる。新しい挑戦をしてこそ、伝統はつながるとの教えだ。

「唐物」と呼ばれる中国製籠の模倣からスタートして芸術性を極めた初代、透かし編みを用いて、洗練された日本の美を追求した二代、そして三代は現代アートとしてオブジェ作品を制作した。

堺市博物館に展示した自作「昇龍」の前でインタビューに応じる竹雲斎

四代は東京芸術大彫刻科に進み、竹のオブジェを手がけたが20歳代後半、壁にぶつかる。工芸品として発展してきた日本の竹作品は、海外のコレクターに人気でも、美術館のメインスペースでの展示機会はなかなか得られなかった。

突破口が開いたのは2009年。ロンドンで現代美術家アニッシュ・カプーアのインスタレーションに衝撃を受ける。大砲の筒から真っ赤な液体が放たれ、白い壁に次々当たって赤く染めていく作品。「空間全体で見る者の五感に訴える力がある」と感動し、インスタレーションに取り組み始めた。

自らのテーマを「しゅ」の漢字3文字で表し、「受け継いだものを打ち破るとも、伝統を離れて己の境地を探すとも、守ることを忘れるな」と戒める。

「四季豊かな日本で育った竹は繊細な植物。一本ずつ柔らかさ、しなやかさが異なる。人の手でひごに加工し、編み上げることで美を発見する。竹だからこその曲線美、優しさ、すがすがしさを追求していきたい」

展覧会「堺の竹工芸家たち―前田竹房斎と田辺竹雲斎―」

11月3日まで、大仙公園内の堺市博物館(堺区)。前田家、田辺家の代々の作品や四代竹雲斎の「昇龍」など約70点を展示。「双界」を展示している「四代田辺竹雲斎展」は、博物館隣接の堺市茶室「伸庵」で同時開催中。一般1000円(高校・大学生500円、小中学生250円)の観覧券で両展とも観覧できる。午前9時30分~午後5時15分。月曜休館(祝日は除く)。(電)072・228・7143。

(2025年10月8日付 読売新聞夕刊より)

二間の茶室をつなぐように設置された「双界」には高知県産の「虎竹」が使われている
「昇龍」は「登竜門」という中国の故事を意識して制作した
「来年以降は高さ50メートル規模の巨大な作品にもチャレンジしたい」と語る

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