石川・能登地方の原風景を象徴する黒瓦とも呼ばれる能登瓦や、豊かな歴史をいまに伝える古文書。これら数多くの文化財や文化施設は今年の地震、水害によって保存・継承の危機に直面している。そんな中、立ち上がったのが建築・歴史などの分野で専門的な知識を持つ有志たちだ。復興道半ばの被災地で、能登の文化を守るために奮闘する人々の取り組みを紹介する。
文化審議会は〔2024年〕10月18日、曹洞宗大本山総持寺の別院「総持寺祖院」(輪島市)を国の重要文化財に指定するよう答申した。関係者は「地震や豪雨災害の被害に見舞われた能登の復興のシンボルになれば」と願いを込める。
総持寺祖院の境内は現在も灯籠などの石造物が倒れたままで、建物の壁のはがれなども目立つ。複数の建物をつなぐ回廊の一部は倒壊しており、ブルーシートで覆われていた。
一方、重文指定の答申を受けた山門や大祖堂などは、扉や装飾などの一部に破損が見られたものの、倒壊は免れて往時の威容が保たれている。総持寺祖院は2007年にも震度6強の地震に見舞われ、その後約13年かけて修理とともに地盤補強などの耐震工事を行ったことが功を奏したようだ。
副監院の高島弘成さん(51)は「元日の地震は07年よりも揺れは大きく、耐震工事をしていなければ甚大な被害があったと思う」と話す。過去の震災を乗り越え、現代に歴史的景観を伝えていることは、文化審答申でも高く評価された。
9月の豪雨災害では総持寺祖院に目立った被害はなかった。一方、輪島市によると、国重文「時国家住宅」「上時国家住宅」で大量の土砂や泥水が流れ込むなど、文化財の被害は続く。
総持寺祖院は1321年に開かれた。明治時代に火災に遭い、総持寺が横浜市に移転したことに伴い、別院として再興。境内は一部が立ち入り禁止になっているが、地震後も欠かさず参拝に訪れている住民の姿もある。
高島さんは「寺には地域とともに歩んできた歴史がある。重文指定を励みに、貴重な建物を後世に残していけたら」と力を込める。
(2024年11月3日付 読売新聞朝刊より)
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