石川・能登地方の原風景を象徴する黒瓦とも呼ばれる能登瓦や、豊かな歴史をいまに伝える古文書。これら数多くの文化財や文化施設は今年の地震、水害によって保存・継承の危機に直面している。そんな中、立ち上がったのが建築・歴史などの分野で専門的な知識を持つ有志たちだ。復興道半ばの被災地で、能登の文化を守るために奮闘する人々の取り組みを紹介する。
能登半島地震では、輪島塗の製造統括と販売を担う「塗師屋」も大きな被害を受けた。
塗師屋住宅の伝統を色濃く残し、「大崎家住宅主屋」として国登録有形文化財になっている輪島市の「大崎漆器店」も全壊となった。その復活を願い、販売支援に奔走しているのは、同店のファンたちだ。
〔2024年〕10月19日、神奈川・北鎌倉の古民家アトリエに多様な漆器が並んでいた。漆器の情報発信を行う「日本のうるし」を主宰する渡辺直乃さん(56)らが企画した大崎漆器店の販売会だ。渡辺さんは震災後、同店のファン仲間4人でグループを結成し、販売に手が回らない同店に代わって、度々販売会を催してきた。この日は、店主の大崎四郎さんの次女で、東京都内在住の大崎貴代子さん(46)も手伝っていた。
渡辺さんらは輪島にも入り、がれきの下から漆器を取り出したり、洗ったりする作業も手伝ってきた。今回、「塗師屋さんの雰囲気を少しでも皆さんに感じてほしい」(渡辺さん)と、同店入り口に掲げられていた「のれん」や、「漆おけ」も販売会場で飾った。また、土蔵に眠っていた昔の漆器も多数見つかり、近年の商品とともに販売された。先代、先々代が料亭向けに製造していたもので、四郎さんも「こんなものがあったとは」と驚いていたという。
同店は江戸期創業で、希少な国産漆にこだわって漆器製造を続けてきた。NHK連続テレビ小説「まれ」のロケ地としても知られている。渡辺さんは「塗師屋文化を体現する貴重な漆器店。母屋の壁は残ったので、できることなら再建してほしい」と支援の継続を決意している。
大崎漆器店は、11月28日~12月4日に東京ドームシティのプリズムホールで開かれる「テーブルウェア・フェスティバル」に出展する。
(2024年11月3日付 読売新聞朝刊より)
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