国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」に、これまでに日本から登録された8件は、古代から昭和の時代まで、先人が書き残し伝えてきた文字、絵など希少な歴史資料として高く評価されている。所蔵元は、次代へ伝えるべく大切に保管し、修理を進めるとともに、デジタルアーカイブ化による検索を可能にしたり、現地で実物をいつでも見られるよう公開したりと、誰もが手軽に資料を閲覧できる環境を整えている。歴史の事実を訴えかけてくる人類共通の遺産「世界の記憶」のメッセージに触れてみたい。
2017年10月に登録された「
明治時代に初代群馬県令が三碑の保護に力を入れ、1954年には国の特別史跡に指定され、県内では歴史的価値が早くから認識されていた。直径3キロの範囲に点在する三碑は、劣化を防ぐため鉄筋コンクリートの覆い屋で保護し、ガラス窓越しにいつでも見られるようにして公開している。多胡碑の近くにある「多胡碑記念館」では、三碑の実物大レプリカ、解説パネルなどを展示している。いずれも無料で見学できる。
ユネスコの「世界の記憶」登録が決まり、国際的な評価を受けると、さらに世界へ歴史的な価値を発信しようと地元は盛り上がりを見せた。
「ボランティア団体が相次いで結成、それぞれすみ分けながら活動を続けるなど、三碑への関心が個人からグループへ広がりました」と角田真也・市教育委員会文化財保護課長。メンバーは今も見学者への案内、解説ガイド、三碑周辺の環境整備など精力的に取り組んでいる。高崎市も3か所を巡回する無料バスを運行して活動を後押しする。20年3月には「上野三碑かるた」を作成し、昨年からかるた大会を開催している。 上野三碑ボランティア会の横田公一会長(72)は「大切にされてきた貴重な文化財を、これから1000年、2000年先へ引き継いでいきたい。県外からも多くの人が訪れて、関心を持ってもらえたら」と語った。
「世界の記憶」とは
◆文書や絵画など対象 国際登録は計494件に
人類にとって忘れてはならない文書、記録など貴重な遺産を保存、活用するために、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)が1992年に創設、95年から登録を始めた。旧ユーゴスラビア内戦で、ボスニア・ヘルツェゴビナ国立・大学図書館が破壊され、貴重な記録文書が失われたのを機に、人類共通の遺産を守る意識が高まり制度創設につながったという。登録の対象は、文書以外に絵画、写真、映画、録音、楽譜などまで多岐に及ぶ。原則として2年に1度、ユネスコ事務局長が指名した有識者による国際諮問委員会で選定する国際登録とアジア太平洋地域委員会などが選定する地域登録がある。国際登録は、2023年は世界で64件を登録、制度開始以来494件にのぼる。
各国から最大2件(共同申請は含まない)の登録の推薦が認められている。日本からは、今年、登録が認められた「智証大師円珍関係文書典籍―日本・中国の文化交流史―」はじめ、これまでに8件を登録している。資料の価値は国によって評価が分かれるケースがある一方で、「慶長遣欧使節関係資料」はスペイン、「朝鮮通信使に関する記録」は韓国と、国境をまたいで共同で申請し登録が実現した。
日本は公文書の廃棄が問題となるなど、文書など歴史遺産のアーカイブ(記録保存)に対する意識が薄いと言われ、「世界の記憶」の価値が浸透すれば、新たな遺産の発掘、保存が進むと期待されている。
日本ユネスコ国内委員会の白井俊事務局次長は「登録を機に貴重な文書、記録をデジタル化などで広く公開し、保存が進む環境が整うよう期待したい」とする。
(2023年7月2日付 読売新聞朝刊より)
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