
「勧進能」は、室町時代から江戸時代にかけて、神社仏閣の建設・修繕費用を集めるために行われた能の興行だ。「薪能」は、野外に設置された舞台の周りにかがり火をたき、幻想的な炎の明かりの中で演じられる。 今回の「勧進薪能」の開催について、永平寺は、大遠忌記念の文化事業の一つとして、「曹洞宗とも関わりが深く、禅の思想の影響を受け、能楽を大成させた世阿弥元清の伝統を継承する二十六世観世宗家・観世清和氏、嫡男・三郎太氏による『勧進能』がふさわしいと判断した」と説明する。「永平寺之式」の小書が付いた「田村」の演能は今回が初めて。
舞台は、桜の花散る京都・清水寺。前半、坂上田村麿の化身である童子が寺の縁起を語り、後半は田村麿の霊が武勇のさまを見せて、観音の利益をたたえる。
東国の僧たちは、春たけなわの都を訪れ、清水寺へ向かう。

夜半、僧の読経のうちに、田村麿(後シテ)が在りし日の武将姿で現れ、寺への祈念により朝敵を討った武勲を示し、観音の仏力をたたえる。
田村堂の中へと姿を消した童子は、実は田村麿の化身で、後半には武者姿の田村麿の霊が現れる。シテは前半と後半の間に中入して面や装束を変えるが、同じ演者が勤める。今回は観世清和さんが演じる。
源平の武将の霊が、修羅道に落ちて苦しむさまを語ることの多い「修羅物」の一つだが、古来は「祝言の修羅」とされ、他の修羅物とは異なった趣向を持つ。修羅道の苦しみを描かず、かげりのない明るさ、強さ、さわやかさが特徴だ。 今回の勧進薪能では、清水寺門前の者(アイ・山本東次郎さん)が僧に対し、懐奘禅師の縁起を物語る(永平寺之式)という、特別な演出で上演する。
「初心忘るべからず」「秘すれば花」などの名文句で知られる「風姿花伝」は、能を大成した世阿弥(1363~1443年頃)の代表的な能楽論で、芸の核心を花にたとえ、稽古や演技、作品、観客などを多面的に論じたもの。
観世宗家に伝わる「風姿花伝」五巻本の最古の写本(室町時代後期)、いずれも世阿弥直筆の「花伝第六花修」と「花伝第七別紙口伝」からなる「観世宗家伝来 世阿弥能楽論『風姿花伝』」が、歴史的文書の保存などを目的とするユネスコの「世界の記憶」の国内候補となり、2027年春に登録の可否が決まる予定だ。

「能の本を書く事、この道の命なり」から始まる「花伝第六花修」は、世阿弥の署名と花押が入っている唯一の伝書で、世阿弥による朱墨の句読点が打たれている。「花伝第七別紙口伝」には、16世紀に観世屋敷を襲った火災で焼け焦げた跡が残っている。 これらの伝書はこれまで、門外不出として観世宗家のみに相伝されてきたが、「世界の記憶」は、多くの人がアクセスできるようにすることを目的としており、今後広く公開することを検討している。
永平寺二祖懐奘禅師 七百五十回大遠忌記念 勧進薪能
【日時】10月17日午後6時開演(8時20分頃終演予定)
【会場】永平寺東京別院の長谷寺(東京都港区西麻布)、麻布大観音前(雨天時は法堂)
【出演】二十六世観世宗家・観世清和、観世三郎太、山本東次郎
【主催】長谷寺勧進薪能実行委員会
【協力】読売新聞社
【特別協力】永平寺、観世宗家、長谷寺
【チケット】チケットぴあ、観世能楽堂(☎03・6274・6579)で販売


(2026年8月2日付 読売新聞朝刊より)
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