即位礼正殿の儀が10月22日に行われる。皇居の東御苑内にある宮内庁三の丸尚蔵館では、展覧会「大礼―慶祝のかたち」が開かれている。大正と昭和の大礼に際して献上され、皇室に伝えられた慶祝の品々が並ぶ。同館の五味聖主任研究官に見どころを聞いた。
「大礼」とは、天皇の即位に関する一連の儀式のこと。近代になって初めて、国を挙げて奉祝するという形が整えられたのが大正4年(1915年)の大礼で、昭和3年(1928年)の大礼もその形を引き継いだという。
三の丸尚蔵館は、大正と昭和の大礼の際に、即位をお祝いするために贈られた品々を所蔵している。美術品に限らず、食料品など地方の特産品なども献上されたそうだ。五味さんは、「海外交流が盛んになった昭和の大礼では、外国から贈進された品が増えたことや、美術奨励の意味合いから、皇族方がお祝いの品として美術品を取り交わされたことが特徴です」と説明する。
今回の展覧会は会期を三つに分け、それぞれ時代を映し出している作品、めでたいモチーフが用いられているもののテーマで作品を選んだ。計38作品のうち、10件が初公開だ。
第1期では、その当時の美術の特質や時代の様子を伝える作品を主に展示している。
鏑木清方による屏風「讃春」は、昭和の大礼の際に三菱財閥の岩崎家から献上された作品。「右隻には皇居前で語らう女学生が描かれており、昭和初期には、女学生の服装が、着物から洋装の制服に改められ、特にセーラー服が全国規模で広がったという時代背景が分かります」(五味さん)。左隻に大きく描かれた清洲橋は、関東大震災後の復興の一環として昭和3年に完成したばかりで、復興と大礼が重なった時代背景を読み取れる。
天皇の即位に合わせた大嘗祭で用いる新米を収穫する斎田は、「悠紀」と「主基」の2か所が選出される。大正の大嘗祭では、悠紀地方が愛知県、主基地方が香川県と定められ、大正の大礼に際して愛知県からは「七宝斎田豊作図花瓶」が献上された。悠紀斎田に豊かに実った稲穂が、美しい色合いで表現されている。 また薩摩焼の花瓶「白薩摩大礼奉祝唱歌浮彫花瓶」は、大正の大礼奉祝唱歌の歌詞が彫られている。この唱歌は、即位礼当日に全国の各学校式場で合唱されたもので、「この時ならでは」と五味さんは話す。
第2期では、吉祥の表現、なかでも「鳳凰」を中心に紹介する。鳳凰は、皇室への献上品に多く用いられているモチーフで、例えば昭和大礼で三重県から献上された「瑞鳳扇」(御木本幸吉作)では、扇面の左右に描かれている。大小1600個もの真珠が留め付けられており、華やいだ雰囲気が伝わる。
中村蕉畝作の屏風「朝陽に松鳳凰図」は、昭和大礼の奉祝品として東京商工会議所から贈られた。「伊藤若冲の代表作、動植綵絵の一幅『老松白鳳図』の影響を受けています。あまり知られていない作家ですが、彼の代表作といえる作品ではないでしょうか」(五味さん)。
3期では、菊や桐をはじめとするさまざまな吉祥のモチーフが表された作品を集めた。
昭和の大礼に際し、香淳皇后から昭和天皇に贈られた屏風「玉柏」(平福百穂作)は、右隻に、仲むつまじいキジバトのつがいが、柏の葉の茂る枝に止まっている様子が描かれている。「左隻には勢いよく伸びる若竹が描かれています。竹は昭和天皇のお印でもあり、吉祥の意に満ちています。平福円熟期の代表作と言える作品です」(五味さん)
このほか、昭和大礼で貴族院から贈られた羊や鶏をモチーフにした置物など、めでたく、新しい時代の太平を願った作品がそろう。
「作家がこれまで培った技や表現力などを十分発揮しようと考えたでしょうから、作家にとっての代表作と言えるものも少なくありません」と五味さんは話す。作品は会期ごとにすべて入れ替えられる。厳粛ななかにもお祝いムードが感じられる宮内庁三の丸尚蔵館に、それぞれの会期に合わせ足を運んでみたい。(紡ぐプロジェクト事務局)
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