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2020.7.10

コロナ禍の文化芸術支援に560億円 文化庁・宮田長官が語る思い

新型コロナウイルスの影響によって活動に支障が生じている文化・芸術関係者を対象に、文化庁は活動支援策として「文化芸術活動への緊急総合支援パッケージ」を打ち出した(詳細は記事の後半に)。この支援策に込められた思いについて、宮田亮平・文化庁長官に話を聞いた。

Q)新型コロナウイルスの影響で、文化芸術に関わる方たちが苦境に立たされています。

宮田長官)予期せぬ、そして見えない敵(新型コロナウイルス)によって、文化芸術に限らず、世界中の人たちが厳しい局面に立たされています。そのような時に、喜びや感動を与えるのが芸術家の仕事だと思っていました。ですが、芸術家がやるべきこと、やりたいことが出来なくなっている。表現して当たり前という人たちなのに、表現の手段がもぎ取られてしまうということは大きなショックだったと思います。

特に若手の芸術家にとっては、色々な挑戦をして、世の中に認められようとしていた矢先にコロナの影響を受けたというのは、本当につらいことだと思います。芸術を生み出すには色々な試練があると思いますが、その生む苦しみすら奪われてしまった。芸術を愛し、それをなりわいにしようとする若い方が苦しんでいることに心を大変痛めています。

Q)若手の頃というのは、芸術家にとって非常に重要な時期なんですね。

宮田長官)私も東京芸術大を卒業してから10数年くらいまでの間は苦労の連続でした。(芸術で)食えなかったんですよ。ただ、食えないけれども、作る喜びというのはずっとあったわけですよね。常に新しいものを作っているという喜びがあった。それがなくなることはどんなに辛いことか。芸術家というのは、生む苦しみ、ああでもないこうでもないと思いながら葛藤して作った作品群というのが全部こやしになるのです。

助走のきっかけに

Q)総額560億円もの「文化芸術活動への緊急総合支援パッケージ」が文化・芸術に関わる人たちへの支援策として発表されました。

宮田長官)芸術家の皆様に加え、超党派の国会議員の先生方による「文化芸術振興議員連盟」から「文化芸術の灯を消してはいけない」という後押しをいただきました。その結果、第2次補正予算で、文化庁の1年間の予算の半分を超える額の支援策を打ち出すことができました。文化庁としては多くの方々の後押しによる支援が早く届き、苦境に立たされている芸術家が新たな一歩を踏み出す助走のきっかけになればと願っています。

Q)6月に入り、博物館やイベントの再開など、明るい兆しも見えています。

宮田長官)文化庁としては、東京五輪・パラリンピックに向けて、「紡ぐプロジェクト」や「日本博」などを通じて日本文化の素晴らしさを発信しようと取り組んできました。そのさなかにコロナに見舞われてしまい、日本博のオープニング・セレモニーも3月14日に大々的にやるつもりでしたが、残念ながら中止せざるを得ませんでした。それでも、日本博のオープニングについては、6月20日にBS日テレで多くの方に収録した映像を見ていただけました。

博物館や美術館も各地で再開しつつあります。出かけられた方が「来て良かった」と、感想を述べているインタビューをテレビで見ました。こういう時期だからこそ、文化芸術が、心のよりどころであるということを、改めて感じられるのではないでしょうか。今後は日本博関連でも、各地で魅力的な行事が次々と展開されていく予定です。

チャンスの舞台をつくりたい

Q)コロナ禍をきっかけに、オンラインでの作品紹介など、新しい芸術の楽しみ方も広がっています。

宮田長官)美術館・博物館ではオンラインによる作品の細部の解説など、新たな芸術の楽しみ方を提供しています。オンラインでは作品の画像のアップによって、ディテールまでしっかり見えるという利点があります。今後、実物を見る機会があれば、ディテールを知っていることでより作品の本質に近づける。知識が生きた知恵になって、自分の中で吸収される。体全体で作品の魅力をより感じられるのではないかと思います。

Q)文化芸術に携わる方々にエールをお願いします。

宮田長官)ある若い芸術家は活動自粛中でも、自宅で可能な小説執筆など、新たな創作に取り組んでいます。各団体・個人の意欲的な活動によって日本の芸術文化は支えられています。現状は思うような活動ができない葛藤はあると思いますが、コロナが収束した暁には、日本の芸術力を世界にはっきりと示す最大のチャンスを迎えられるはずです。その時のために、どうか力をためていてほしい。チャンスが巡った時には、文化庁がしっかりとその舞台をつくりたいと思っています。

文化芸術の力は、人々の心に喜びと感動をもたらします。それが、日本の国力の向上にもつながり、経済や観光にも貢献すると考えています。

(聞き手・読売新聞文化部 多可政史)

文化芸術活動支援に560億円 国の2次補正予算案

新型コロナウイルスの影響で、日本でも多くの文化芸術活動が休止に追い込まれた。窮状の関係者に対し、政府や自治体が支援策を打ち出している。

政府

政府は6月12日に成立した2020年度第2次補正予算の中で、文化芸術活動への継続支援策「文化芸術活動への緊急総合支援パッケージ」を計上した。

プロのフリーランスの実演家や技術スタッフらに最大20万円を簡単な手続きや審査で支援できるようにする。音楽、演劇、舞踊、映画のほか、サーカスや大道芸、DJなども含めた幅広いジャンルの人たちを対象として想定し、稽古場の確保、技能向上のための研修資料の購入などに充ててもらう。活動を動画収録・配信によって発信するなど、積極的な取り組みにも最大150万円まで支援する。

また、おおむね20人以下の小規模団体を対象に最大150万円を支援する。小規模団体などによる複数の共同事業にも、最大1500万円まで支給する。ライブハウスやミニシアターなども、商工会や商工会議所が窓口となる「小規模事業者持続化補助金」による支援が受けられない場合は、この枠組みでの申請が可能だ。

7月10日から公募を開始。文化庁では、これらの支援情報について、ホームページで公開している。

政府が4月に発表した当初の支援策では、フリーランスを含む個人事業主の収入が前年比半額以上減った場合、最大100万円を支給する「持続化給付金」を決めた。第2次補正予算では活動自粛で経営環境が厳しい芸術家・文化団体などを対象に、より機動的な支援内容としたのが特徴だ。

このほか中止されたイベントでは、チケット購入者が払い戻しを受けず、代金を寄付金として控除できる税制改正も行った。今後の振興策としては、芸術家による公演・展示の各地での実施を後押しし、休校で中止された鑑賞教室など、子供向け体験活動の機会も提供する。収益基盤が傷ついた文化・芸術活動には、長期的な視野で支援が必要だ。

自治体

計約6億4000万円の対策予算を設けた愛知県は、文化芸術関係者を対象に独自の応援金を創設。国の「持続化給付金」を受ける県内の法人に20万円、個人事業者には10万円を交付する。横浜市はアーティストら向けに税理士らが対応する臨時相談窓口を設けた。

京都市では、芸術家らに活動状況のアンケート調査を行った。「生活が苦しい」「発表機会がない」などの声が多く寄せられており、結果の分析を今後の支援策に生かす方針だ。

(2020年6月7日付読売新聞朝刊記事に、一部加筆)

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