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2021.1.25

【養成事業50年】主任講師・中村時蔵インタビュー「名優の魂を次代へ」

「僕は仕事と思ったことは一回もない。とにかく役者の卵を作っていかないと」。あでやかな姫君から、しっかり者の世話女房まで幅広い芸域を誇る中村時蔵さんは、国立劇場「歌舞伎俳優研修」の主任講師を務めている。

「今、立廻たちまわりでとんぼ(宙返り)が返れる人がいっぱいいるのは、研修制度の功績です。立役も女形も関係なく、全員できるようになります」と言い切る。

2007年に講師になり、2年間でプロとして恥ずかしくない人材を育てるカリキュラムを熟考して作った。1年目は「新歌舞伎」と呼ばれる、セリフが多い作品から稽古を始め、歌舞伎らしい発声を身につけさせる。並行して舞踊、義太夫節、長唄、鳴物などを一流の講師陣に指導してもらう。「2年と言わず、1年で別人のように変わります。最近の子は耳が良く、音痴の子がいない。多分、カラオケが普及したおかげでしょうか」と笑顔で語る。

三味線の音に乗って自然に体が動かせるようになった2年目から、歌舞伎の中核と言える「義太夫狂言」に取りかかる。2020年はコロナ禍で4月以降、稽古は休止していたが、6月から再始動。「絵本太功記たいこうき 十段目」「本朝廿四孝にじゅうしこう 十種香」といった歯ごたえのある名作に挑戦させている。「女形だけでなく立役のセリフ回しや動きも教えるので、私も勉強しています」

時蔵さんは名門「萬屋よろずや」(中村時蔵家)に生まれたが、父の先代時蔵さんを早く亡くしたため六代目中村歌右衛門さん、七代目尾上梅幸さん、七代目中村芝翫しかんさんといった女形の名優たちの教えを受けて育ってきた。それだけに、今は自分が次世代に芸を渡す使命があると考えている。「歌舞伎の世界の外から入って来た人も、実力があれば出世できる道も作ってあげたい」

なかむら・ときぞう 1955年、東京都生まれ。父は四代目時蔵。60年、三代目中村梅枝を名乗り、初舞台。81年、五代目時蔵を襲名する。気品ある女形として、姫から傾城(けいせい)、市井の女房まで幅広い役を演じる。2010年に紫綬褒章を受章。

時蔵さんの授業の様子はこちら

弟子の好蝶さんのインタビューです

(2020年11月8日付読売新聞朝刊より掲載、一部加筆)

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