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2022.11.8

【皇室の美】名刀の来歴 豊臣、徳川、明治天皇

皇室には数々の名刀が伝わった。その多くが明治天皇の頃に収蔵されたもので、ここで紹介する短刀「宗瑞そうずい正宗まさむね」もそのうちの一つ。江戸時代にまとめられた名物刀剣の目録『享保名物帳』(1719年)に記載されている。

短刀 無銘 伝正宗「名物宗瑞正宗」
鎌倉時代 宮内庁三の丸尚蔵館蔵

刀工の正宗は鎌倉時代末期から南北朝時代初期に相模国(神奈川)で活躍した人物で、その作風はにえと呼ばれる細かい粒子が目立つ美しい刃文が特徴とされる。本作もそれに準じた作りで、板目肌の地には粒の大きな地沸じにえが厚くつき、刃文は「のたれ」が交じるの目に沸やにおいがしっかりと入る。金筋きんすじ砂流すながしがかかるえた出来が主な見どころである。

本作は天下統一を果たした豊臣秀吉が所持し、大名の毛利輝元に渡った後に輝元の号「宗瑞」の名が付けられたという。

その後、越前松平家を経て尾張徳川家へ渡り、1698年(元禄11年)3月18日に同家より5代将軍徳川綱吉に献上された。徳川将軍家へ伝わった後、1887年(明治20年)8月5日に公爵徳川家達いえさとから明治天皇へ献上された。こうした並々ならぬ来歴も、本作が注目される理由である。

そして、宗瑞正宗には、金製花唐草文様の透かし彫り金具を鞘木さやぎかぶせ、把頭つかがしら鞘尻さやじりなどに菊御紋をあしらった秀麗なこしらえが伴う。

「花唐草透彫水晶入短刀拵」
香川勝廣ほか作 1904年(明治37年)
宮内庁三の丸尚蔵館蔵

各部の金具には佐渡鉱山から採掘された純金を用い、鞘の花形中央には甲州産の水晶がはめ込まれている。

本作は明治天皇の御下命により、当時の宮内省内に設けられた製作場で作られた、「沃懸地いかけじ御紋ごもん蒔絵螺鈿まきえらでん太刀拵たちこしらえ」や「菊蒔絵きくまきえ螺鈿棚らでんだな」と並ぶ、いわゆる明治の「三大作」の一つで、明治天皇のお手許品てもとひんであった。

製作においては、帝室技芸員の香川勝廣が主任となり図案を調整し、金具彫刻を香川とともに川崎則長、金具下地を田村宗吉、鞘を小堀正治が担当した。

付属の文書によれば、「図案は我が国伝来の諸名作を斟酌しんしゃくし明治二十七年成案」とあり、具体的には正倉院宝物の刀剣や刀子などの古い刀装様式を参考にしたとされる。成案から10年後の1904年(明治37年)12月に完成した。

(宮内庁三の丸尚蔵館学芸室研究員 細川晋太郎)

◆皇室と日本美―宮内庁三の丸尚蔵館収蔵品と岩手
 【会期】11月27日(日)まで
 【会場】一関市博物館(岩手県一関市厳美町)
 【主催】一関市博物館、宮内庁
 【特別協力】文化庁、紡ぐプロジェクト、読売新聞社
 【問い合わせ】0191・29・3180

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