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2022.10.12

【皇室の美】 輝く「蓬莱山」古代の技法再現

「蓬莱山」とは中国の伝説の神仙境の一つ。東の海に浮かぶ、仙人の住むという不老不死の霊山である。おめでたい題材のため、日本でも美術品にたびたびその姿が描かれた。この「蓬莱雲鶴蒔絵書棚ほうらいうんかくまきえしょだな」も瑞雲ずいうんが立ち上る雄大な蓬莱山が描かれた作品。裕仁親王(のちの昭和天皇)の立太子礼に際し、同親王より大正天皇へ贈られた。

制作は東京美術学校(現・東京芸術大学)に委嘱され、広島県出身で同校卒業生の漆工家・六角ろっかく紫水しすい(1867~1950年)が主任となって制作された。

「蓬莱雲鶴蒔絵書棚」
六角紫水作 1917年
宮内庁三の丸尚蔵館蔵
扉を開いた状態。内側には銀や螺鈿らでんで桜とカエデの木が表されている。

紫水は1896年から7年間、奈良や京都を中心とした古社寺の宝物調査を行っており、この書棚はその成果を発揮して、正倉院宝物に範を得て制作された。棚の形は正倉院宝物のうち二つの厨子ずしの要素を統合し、さらに中世の書棚などの形状の要素を加えて考えられた。

また図様は同じく正倉院宝物の山水が描かれた箱の文様を参考に再構成し、その表現方法に奈良時代の加飾技法である「末金鏤まっきんる」を用いたという。本来の末金鏤は、漆で描いた文様の上にやすりで削った金粉などをき、さらに漆で固めて研ぎ出す技法だが、紫水は漆に粗い金粉を混ぜて文様を描く技法と解釈し、この書棚で試みている。

さて古代の技法再現に挑戦した書棚を改めて見てみよう。透明感のある黒漆地に粗い金粉が乱反射し、蓬莱山はやわらかく上品に輝く。その幻想的な姿は、まさしく海辺に浮かぶ蓬莱山を目の当たりにしているかのようである。古典的でおおらかな模様は古代の雰囲気がよく再現されており、峻険しゅんけんな岩肌、悠々と空を飛ぶ鶴などを見ていると蓬莱山に一歩踏み入ったように感じるかもしれない。

この書棚制作を機に紫水は母校である東京美術学校で教鞭きょうべんを執ることになり、松田権六ごんろくなどの多くの後進を育成した。古代中国の漆器研究、漆塗料の開発研究などを行い、漆工界に大きな功績を残した。

(宮内庁三の丸尚蔵館学芸室研究員 木村真美)

◆皇室の美と広島 ―宮内庁三の丸尚蔵館の名品から
 【会期】10月30日(日)まで ※会期中展示替えあり
 【会場】広島県立美術館(広島市中区上幟町)
 【主催】広島県立美術館、広島テレビ、イズミテクノ、宮内庁
 【特別協力】文化庁、紡ぐプロジェクト、読売新聞社
 【問い合わせ】082・221・6246

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