10世紀の初め、『古今和歌集』は醍醐天皇(885~930)に捧呈された日本初の勅撰和歌集。紀貫之の「仮名序」がその巻頭を飾ったように、漢字から生まれて間もない仮名を積極的に用いて、日本語の語順で和歌や詞書を筆記した画期的な和歌集の誕生であった。
この原本は伝わらず、現存する最古写本は150年余り後、1050年頃に成立した「高野切」本で、洗練され優美さをそなえた平仮名の姿が確認できる。
本作品はそれより少し下った11世紀後半から末頃の書写と推定され、その書は垢抜けて、繊細な筆線で流動的な筆致を展開する。とりわけ、仮名どうしがつづけ書きされ、それが一本の細い糸のように紙上に連なる技法(連綿)が巧みに織りこまれる。この連綿により、文字が流れとなって行を生み、行が相互に響き合って和歌が紙上に姿を現す。この平仮名を互いにつなぐ連綿こそ、筆記の実用性と視覚的な美しさを兼ねた、平仮名らしい表現の一つである。
また、本作品の料紙は、打曇と雲母刷りにより装飾される。打曇紙は、藍や紫の紙を湿らせて叩解し、繊維をほぐしたものを、地となる料紙の上下に雲状に再度漉いた紙をいい、上下の雲の内側を曇りに見立てて、その名が付けられた。この打曇紙と、一面に微細な雲母砂子を蒔いた紙面からなる綴葉装の冊子が、当初の姿であった。2種の料紙が天上の気象を象徴し、書風とよく一体化して平安中期の貴族の美意識を伝える。江戸時代は丹波・亀山藩主松平家に伝来し、近代では益田鈍翁が所持した。『古今和歌集』の巻2と巻4の39首分を収める。
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