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2023.10.6

【国立劇場 いったん幕引き】舞台を支える人々

国立劇場では、舞台技術部などに所属する74人の職員が、伝統の至芸を披露する舞台を支えてきた。閉場中も、都内で開催する主催公演などを手がけながら新しい国立劇場を見据えて、技術を継承していく。

〈安全管理の責任〉

◆ 制作部副部長  杉山美樹さん (65)

国立劇場に入って40年、舞台監督一筋の大ベテランだ。4人の部下を率いつつ、今も現役として舞台進行と予算管理をつかさどる。「歌舞伎は(現代劇より)稽古期間が短い。舞台稽古の前までにできるだけの情報を集め、小道具の位置から何から、全てのことを把握しなくてはいけない」と力を込める。

舞台監督として最大の責任は「安全管理です」と言い切る。「ありとあらゆるリスクを洗い出し、指さし確認をする。地震以外のほとんどのトラブルは油断から起きる。事前にチェックしておけば、防げます。そこを怠ってはいけない」

直接担当していない公演でも、何か不測の事態が起きた時にいつでも代打に立てるよう、全ての公演台本に細かく書き込みをしている。10月の最終の歌舞伎公演も、今から準備に怠りはない。

舞台袖から指示を出す杉山美樹さん
〈大道具の設計図〉

◆ 制作部舞台監督美術課長  豊住ゆかりさん (50)

歌舞伎、文楽など国立劇場の主催公演に使われる「大道具」の設計図を描く。「我を出さず、『こだわらない』ことが大事です」と仕事のモットーを語る。「自分が描いた設計図以上に大道具さん、絵描きさんが美しく仕上げてくれて、そこに照明が当たって役者さんが入ると、さらに倍々で良いものになる。私の持っている力以上のものができるのがうれしい」

印象深い仕事は、2019年12月の歌舞伎公演「蝙蝠こうもりの安さん」。昭和初期、チャップリンの映画「街の灯」を原作に一度だけ上演された新歌舞伎を88年ぶりに復活上演したもので、過去の資料が存在せず、キャリア約20年の知識と経験をフル動員して大道具を設計した。初日が迫る中、急きょ発注された「道具幕」(景色の絵が描かれた幕)も全速力で間に合わせることができ、公演の評判も良く、ほっとしたという。

大道具の設計図を描く豊住ゆかりさん
〈影を作らない照明探究〉

◆ 舞台技術部技術課照明係 技師補 斎川琴音さん

天井からつるしたライト、足元から、客席側からと多くの照明が役者を照らす。

「コンサートなどとは違い、古典芸能は影を作らず一枚の絵のように見せるのが特徴。舞台上の手前も奥もどの席からでも、同じ明るさで美しく見えるよう、照明の角度などを整えています。先輩の照明仕込み図を見て、日々勉強です」

照明を調整する斎川琴音さん
〈スムーズなバトン転換〉

◆ 舞台技術部舞台課大劇場舞台係 技師  奥山友佳さん

舞台上部の天井にはバトンと呼ばれる鉄管がられている。背景となる美術バトン、ライトが付いた照明バトンなどを、舞台監督の指示などを受けて昇降させる。

「安全に、スムーズに転換できること、公演を進行させることが存在意義。閉場中はほかの劇場での舞台機構を学び、また新しい劇場に持ち帰りたい」

美術バトンを操作する奥山友佳さん
〈「国立劇場の音」づくり〉

◆ 舞台技術部技術課音響係 技師  竹山知里さん

役者の声を拾うマイクやスピーカーなど、音響関係の機材をメンテナンスしたり、公演ごとに位置を決めたりといった作業でより良い音づくりに努める。

「先輩方からは、みんなにきれいに聞こえる『国立劇場の音』を教わっています。客席からの拍手の音も含め、一体となって舞台が作られているのを感じます」

音響設備に細心の注意を払う竹山知里さん

(2023年10月1日付 読売新聞朝刊より)

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