2022.7.13

【歌舞伎インタビュー】「理屈抜きで楽しんでもらえれば」―「七月大歌舞伎」第三部『風の谷のナウシカ』中村米吉さん

歌舞伎座で上演されている『風の谷のナウシカ』。今回は米吉さんがナウシカを演じている ⓒ松竹

東京・東銀座の歌舞伎座で7月29日まで公演中の「七月大歌舞伎」。第三部では宮崎駿氏の長編漫画、アニメ映画で知られる『風の谷のナウシカ』が歌舞伎座では初めて上演されている。2019年、新橋演舞場にて昼夜通しで初演された新作歌舞伎。その中から今回は、「白き魔女」クシャナの活躍を描いた前半部分を再構成した。前回、尾上菊之助さんが演じたナウシカを、今回は中村米吉さんが演じる。 (聞き手は事業局専門委員・田中聡)

『風の谷のナウシカ』 ナウシカ:中村米吉 ⓒ松竹

――歌舞伎座では初上演の『風の谷のナウシカ』。米吉さんは前回も出演されていますね。今回の再演で、ナウシカという菊之助さんが演じた役をおやりになるわけですが、話を最初に聞いた時、どんなことを思われましたか。

米吉 前回はケチャの役で公演に参加しました。一体、どんな芝居になるのか、全く分からない所から始まって、約1か月間の長いお稽古の中で、芝居が作り上げられる過程を体験できましたね。

ナウシカを演じた菊之助のお兄さん、クシャナを演じた(中村)七之助のお兄さん、(ユパを演じた尾上)松也のお兄さんといった、割と年の近い先輩に加えて、父(中村歌六)や叔父(中村又五郎)ら大先輩の方々も出演されていて、それぞれに自分の役をまとめていくのを見ながら、「すごいな」「自分もこうやっていかなくては」と感じていました。

「話をもらった時には驚きと不安しかなかった」と話す米吉さん ⓒ松竹

昼夜通しの長い作品ですし、あれだけのキャストはなかなか集まらないので、再演があるのかどうか、その時は想像できなかったので、「歌舞伎座で」という話が来た時にはびっくりしました。しかも、今回は菊之助兄さんがおやりになったナウシカの役。「自分でいいんだろうか」「大丈夫なのか」という気持ちがまず、浮かびましたね。

『風の谷のナウシカ』は「宮崎アニメ」で有名だが、アニメになっているのは宮崎駿さん自身が描いた原作漫画のごく一部。全7巻の原作は、戦争で科学文明が崩壊した後の世界で、自然との共生を目指す少女ナウシカを中心にした物語だ。今回上演されるのはその前半部分で、「白き魔女」と呼ばれるトルメキアの皇女、クシャナの活躍を中心に構成。新橋演舞場での初演では、昼の部で上演された部分だ。

――前回、米吉さんは菊之助さんが演じていたナウシカを間近で見ていたわけですが、そのやり方を今回、踏襲されるおつもりなのでしょうか。

米吉 そうですね。今回の「白き魔女の戦記」では、前回の脚本に結構手が入るんじゃないかな、と思っていたんですよ。でも、蓋を開けてみるとそんなこともなかった。大枠は特に変わっていない印象です。なので、菊之助のお兄さんのお芝居を、基本的には踏襲したいと思っています。

ただ、今回は菊之助兄さんが演出も手がけられるので、お兄さんが演じてみて何を考えられたのか、あるいは改めて第三者の目で見て何を思われるのか、そういう要素も加わってくると思います。

『風の谷のナウシカ』 ナウシカ:中村米吉 ⓒ松竹
僕自身が持っている「何か」をどうやったら出すことができるのか

――とはいえ、型の決まっている古典の作品とは、ずいぶん感覚的に違うのでは、と思いますが。

米吉 古典の型は、先輩たちが磨きに磨き抜いたものですから、隅々まで目が行き届いている。先輩たちの教えをいかに守って自分の体にたたき込むかが、まず大事です。

それに比べると、こういう新作の作品は、言い方は良くないかもしれませんが、それと比べてしまえばそこまで練り込まれているわけではない。菊之助のお兄さんの芝居を踏襲するのは当然なんですが、それをただ「なぞる」だけではダメだとも思っています。

どうしたら原作のナウシカにより近づくことができるのか、僕自身が持っている「何か」をどうやったら出すことができるのか。そういうことも考えながら、演じたいとは思っています。

「歌舞伎ならではの表現を楽しんで欲しい」と話す米吉さん ⓒ松竹

中村米吉さんは、1993年生まれの29歳。屋号は播磨屋。中村歌六の長男で、主に女形として活躍している。歌舞伎では『風の谷のナウシカ』に出演中の「七月大歌舞伎」の後は、「八月納涼歌舞伎」(8月5~30日)第二部の『安政奇聞佃夜嵐』、二世中村吉右衛門一周忌追善の「秀山祭九月大歌舞伎」(9月4~27日)第一部『白鷺城異聞』、第二部『松浦の太鼓』、第三部『藤戸』に出演することになっている。

一部の上演で「全体を理解して下さい」というのは難しいけれど…

――三部制の歌舞伎座で、「通し狂言」で上演された芝居の一部をピックアップして演目にする。歌舞伎の「みどり」の伝統を踏まえた上演とも言えそうです。

米吉 もともと原作も難解な内容の作品ですから、なかなかその一部の上演で「全体を理解して下さい」というのは難しいですね。でも、歌舞伎ならではのキャラクター表現だとか、途中で踊りを入れるなどの工夫だとか、理屈抜きで楽しんでもらえる舞台になるのでは、と思っています。歌舞伎では(『ナウシカ』を)こう見せる、というところに注目して欲しいですね。

――「みどり」の演目で、特に心がけていることはありますか。

米吉 例えば、『菅原伝授手習鑑』だと「寺子屋」の戸浪を演じる時も、その場面だけじゃなく、全体を分かっていないといけないと思うんですよ。源蔵と駆け落ちして、それにもかかわらず源蔵が師匠から筆法を伝授され、菅秀才かんしゅうさいを預けられる……、そういう流れを経て『寺子屋』の場面がある。

その点では、今回の『ナウシカ』も同じ。全部の物語を把握してこそ、「白き魔女の戦記」もちゃんと演じることができる。今回の公演では、改めてそういうことを認識し直すことができましたね。

『風の谷のナウシカ』 ナウシカ:中村米吉 ⓒ松竹

――米吉さんも来年で30歳。今回もそうですが、歌舞伎座でも大きな役が目立つようになってきました。9月の「秀山祭」は亡くなった中村吉右衛門さんの追善興行ですが、一部から三部まで出ずっぱりです。今後の抱負はいかがでしょう。

米吉 30歳というと、世間ではもう「若手」とは言っていられない年齢ですし、(坂東)巳之助兄さんや(尾上)右近さん、同世代の人たちの活躍も目立ち始めていますからね。コロナ禍でいろいろ難しい時代ですけども、自分ももっと頑張らねば、と思いますね。

9月の「秀山祭」は吉右衛門のおじさまの追善興行。おじさまには、「お世話になった」という一言では表現できないぐらい、いろいろなことを教えて頂きました。播磨屋として、泉下のおじさんにはずかしくないような舞台を勤めたいと思っています。

歌舞伎座・七月大歌舞伎のサイトはこちら https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/766

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