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2024.3.6

クールな日本 ホットな体験

大阪松竹座のインバウンド向け公演では、外国人の観客らが歌舞伎の立ち回りを体験した(大阪松竹座で)=松竹提供

1年後に迫った大阪・関西万博の開幕に向けて、伝統芸能を外国人に分かりやすく伝え、訪日客を劇場に呼び込む動きが広がっている。各劇場や制作団体は、万博を「日本文化の魅力を発信する好機」と捉え、英語解説付き公演や、海外でも人気の高いアニメーションとの共同企画、バックステージツアーなど、様々な工夫を凝らしている。(編集委員 坂成美保)

〈歌舞伎〉立ち回りや見得 訪日客にレッスン

〔2024年〕1月22~28日、大阪・道頓堀の大阪松竹座で、初めて訪日外国人向けの歌舞伎公演が開催された。タイトルは「Night KABUKI in Osaka Dotonbori」。プログラムは英語でも記載され、解説「歌舞伎のみかた」と歌舞伎舞踊「操り三番叟さんばそう」で構成した。

案内役は歌舞伎俳優の片岡千寿。英語通訳者も出演し、観客を舞台に上げる体験コーナーでは、刀を手にした立ち回りや見得みえを切るレッスンで盛り上がった。

「操り三番叟」の一場面=松竹提供

名優たちや女形の化粧の様子は映像で紹介し、回り舞台やせりを実際に動かしてみせる。最後に「操り三番叟」の片岡千次郎がユーモラスな踊りで魅了した。

公演の宣伝に関西在住の外国人留学生も一役買った。留学生による「歌舞伎広報隊」が出演者にインタビューし、内容をSNSなどで発信した。

南座ロビーでは歌舞伎の衣装などの展示も

松竹は、クール・ジャパンの代名詞・アニメとのジョイントも模索している。

外国人観光客が多く訪れる京都・南座では1~2月、人気アニメ「マクロス」シリーズとの共同企画展を開催した。主人公が歌舞伎の名門出身という設定のシリーズ作「マクロスF(フロンティア)」にちなんだ企画で、アニメのキャラクターデザイナーが歌舞伎の衣装姿の人物を描き下ろし、パネル展示した。

「鷺娘」や「阿古屋」のヒロインの衣装で描かれたキャラクター
「道成寺」の鐘のセットに中にアニメのキャラクターが並ぶ南座の舞台

歌舞伎舞踊「京鹿子娘道成寺」の釣り鐘のセットを飾った舞台に、歌舞伎の登場人物・白拍子花子の衣装を着た「マクロス△(デルタ)」のキャラクターが並び、入場者は記念撮影を楽しんでいた。期間中、ライブやトークショーも開催され、記念グッズも好調な売れ行きだったという。 

◇     ◇     ◇

〈文楽〉「曽根崎心中」背景アニメに

大阪・国立文楽劇場では今月〔2月〕7、8日、外国人向けバックステージツアーを初開催した。英語通訳者付きで、文楽の独特の舞台機構や大道具類、楽屋を見学し、2日間で45人が参加した。

国立文楽劇場の舞台を見学する外国人ら

このほか、ロビーには外国人専用の案内コーナーを設置。英語での場内アナウンスやイヤホンガイドも導入し、観客に英語でのアンケートも実施している。

同劇場などを運営する日本芸術文化振興会(芸文振)は、文楽にアニメの背景映像を融合させた「曽根崎心中」を初めて制作。映像美術をスタジオジブリ作品「となりのトトロ」「もののけ姫」の美術監督・男鹿おが和雄が手がけた。

第1弾として3月23~29日、東京・有楽町よみうりホールで上演。配役は人形が徳兵衛・吉田玉助、お初・吉田簑紫郎みのしろうで、浄瑠璃を豊竹藤太夫、豊竹靖太夫、鶴沢清志郎、鶴沢寛太郎らが担う。

将来は海外公演を目指しており、万博期間中に増加が見込まれる訪日客へのアピール効果も狙う。芸文振の切替浩子理事は「日本のアニメ文化に関心を寄せる外国の人々に文楽の魅力も知ってほしい」と期待する。 

◇     ◇     ◇

〈能楽〉英語字幕付けて上演

山本能楽堂(大阪市中央区)では昨年末、英語による司会進行、英語字幕付きの能・文楽上演、英語落語の「初心者のための上方伝統芸能ナイト」を開催した。昨秋、開催した外国人向けの能楽堂見学会も好評だったという。

山本能楽堂では囃子方はやしかたの体験も行われた
記念撮影する参加者

万博に向け、新年度からは、同様の外国人向け公演を月1回ペースで続けていく方針だ。

(2024年2月28日付 読売新聞夕刊より)

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