京都の花街・祇園を本拠に発展してきた京舞井上流による舞踊公演「京舞」が、11月29、30日に東京・国立劇場で行われる。21年ぶりの東京公演で、人間国宝で京舞井上流五世家元の井上八千代さんをはじめ、京都五花街の一つ、祇園甲部の芸妓・舞妓ら約60人が出演する。公演を前に、井上さんが舞への思いを語った。
京舞は、御所に仕えた女官らの御殿舞を源流とし、能や文楽人形の動き、歌舞伎舞踊などのエッセンスを交え、独自の美の世界を築いてきた。花街で舞われる座敷舞ならではの雅な風情と表現力とを併せ持ち、今も多くの人に愛されている。
井上流の初代は、江戸時代後期、御所勤めで舞を始めたと伝わる。その後、祇園に根を下ろした。明治5年(1872年)に第1回京都博覧会が開催された際、三世八千代が考案し振り付けた舞踊公演「都をどり」は、今も京都の春の風物詩として受け継がれている。
「(前回の)平成10年(1998年)の公演は、京都でおさらいもみんな済ませまして、さあ出かけようという時に祖母(四世八千代)の具合が悪くなり、すったもんだしたことを思い出しました。その間に五世八千代を襲名しまして、あっという間の21年やったなぁと思います」と井上さん。その間、芸妓の世代交代が進んだ。「育ててもろた人たちがいなくなり、立方(踊り手)は私の世代が一番上になりました。特にこの10年くらいの間に、世の中も舞台の顔ぶれも変わりました」と振り返る。
今回の公演では、曲目を時代に合わせて変えることも考えたが、「やはり伝承されたものをご覧いただこうと。『手打』など、井上流の伝統だけでなく、祇園の伝統もご覧いただきたい」と、京舞の特徴的な曲をそろえた。「手打」は、大勢の芸妓が拍子木を打ち、褒め言葉を囃して花道から登場するという華やかな一幕で、各日の公演を締めくくる。井上さんは「三つ面椀久」と「虫の音」の2曲を舞う。
「三つ面~」は、遊女に入れあげ、座敷牢に閉じ込められ狂ってしまった豪商・椀久の物語で、歌舞伎や浄瑠璃でも知られる「椀久物」の一つ。面を使って3役を舞い分ける。「東京のお客さんは椀久物というと、粋な、もの悲しい作品と受け止められるかもしれませんが、(三つ面~は)もっさりしたものです。(祇園出身で作家の)松井今朝子さんがおっしゃった『近代以前の舞』といいますか、こっくりとした、ねっとりとしたところもある。違った椀久物と思っていただければ」と紹介する。
「虫の音」は能「松虫」を元にしており、秋の情景によせて亡き友をしのぶ内容。「祖母の四世八千代が再三再四舞い続け、『死ぬまで舞いたいな』と言うておりました。私もとても好きな曲で、虫の音を舞う祖母に憧れて、京舞の世界に入りました。ライフワークにしていきたい大切な曲です」と思い入れを語った。
「井上流は女性ばかりでつないできたので、しゃれっ気はあまりないかもしれません。どちらかと言えば訴えかけは強くない。今風のテンポの速い、にぎにぎしいというのもないが、かめばかむほど味わいがある。新たなメンバーで、拙いことが多ございますが、これから先の京都・祇園、井上流を見守っていただく気持ちでご覧いただきたい」と呼びかけていた。
(読売新聞紡ぐプロジェクト事務局 沢野未来)
開催概要
日程
2019.11.29〜2019.11.30
29日(金) 午後3時開演(午後6時25分終演予定)
30日(土) 午前11時開演(午後2時5分終演予定)
30日(土) 午後3時開演(午後6時20分終演予定)
国立劇場 大劇場
〒102-8656 東京都千代田区隼町4-1
1等A席 9,200円(学生6,400円)
1等B席 6,100円(学生4,300円)
2等席 3,900円(学生2,700円)
3等席 2,500円(学生1,800円)
詳細はチケットセンターまで
https://ticket.ntj.jac.go.jp/
お問い合わせ
国立劇場チケットセンター(10時~18時)
0570-07-9900
03-3230-3000(一部IP電話等)
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