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2020.10.4

【インタビュー動画あり】静嘉堂文庫の能面、舞台へ 「貴重な機会」と観世喜正さん

静嘉堂文庫美術館(東京都世田谷区)が所蔵する、江戸中期の作とされる能面が9月2日、国立能楽堂(東京都渋谷区)の舞台で実際に使用された。

美術品の収集、保存、展示が主目的の美術館にとって、舞台で使うために能面を貸し出すケースは極めて珍しい。舞台で使用することで「美術品」である能面が破損するリスクがゼロではないからだ。

それでも同美術館の河野元昭館長は「能面は元々は美術品ではなかった。機会があれば舞台で使ってもらっても良いのではと思っていた」と貸し出す決断をした理由を語る。

能面は、新発田藩(現在の新潟県北部)の藩主だった溝口家が所蔵していた能面コレクションを、静嘉堂の創設者で、能楽愛好家でもあった岩崎弥之助(三菱の第2代社長)が120年前に購入したものという。以来、67面あるこの能面コレクションは一般人の目に触れることは全くなかったが、10月13日から始まる同美術館の企画展「能をめぐる美の世界」で初公開されることになり、その機会に合わせて、能面の貸し出しが実現した。

2日の公演では、人を食う「鬼女」伝説が基になった能「安達原」が上演され、シテの観世喜正よしまささんが曲女しゃくめ曲見しゃくみとも)と呼ばれる、憂いの表情を帯びた女性の面を付けて舞台に臨んだ。コレクションの中でも極めて保存状態が良い面だったといい、「使用にあたっての修復作業などは一切行っていない」と美術館の担当者は語る。

1時間ほどの舞台を勤めた後、喜正さんは紋付き袴の正装に着替えて河野館長と対面し、うやうやしく能面を館長に返還した。喜正さんは「大変きれいな状態で、舞台では(美術館の所蔵品だと)忘れていたぐらい全く違和感がなかった。貴重な機会に巡り合わせていただいた」と感謝を語った。

舞台を観覧した河野館長も「喜正さんが能面をつけて舞ってくれたことで、面がみずみずしく、輝いて見えた」と喜びを語った。

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