文化庁、宮内庁、読売新聞社による「紡ぐプロジェクト」で、2020年度の修理助成事業の対象となる計7件の文化財が決まった。一般公募に応じた、絵画3件、彫刻1件、工芸1件、書跡・典籍1件、古文書1件について、有識者による選考委員会で審議し、7件すべてを選定した。
同会委員長の根立研介・京都大教授は、「いずれも修理の緊急性が高く、すべての助成が決まったのは喜ばしい」と話す。
このうち、京都・浄瑠璃寺の国宝「木造阿弥陀如来坐像」は、平安時代に都で流行した「九体阿弥陀」の形式で、当時の浄土教信仰を伝える貴重な仏像だ。前回修理から100年以上が経過し、漆地に金箔を貼った漆箔が剥落するなど傷んでおり、早急な修理が必要となっていた。
このほか、戦国武将の上杉謙信・景勝所用と伝わる山形・上杉神社の重要文化財「服飾類」や、皇室ゆかりの京都・泉涌寺の国宝「泉涌寺勧縁疏」など、多様な文化財が選ばれた。
国宝「木造阿弥陀如来坐像」(京都・浄瑠璃寺、平安時代)
九体すべてが現存する唯一の「九体阿弥陀仏」。浄土式庭園が広がる浄瑠璃寺の本堂に安置され、広く親しまれてきた。九体すべての修理が順次、進められているが、今年度、修理されるのは、中央に安置される最も大きな像の「中尊」。漆箔の浮き上がりが激しく、過去に修理した部分も変色しているため、手当てする。
重要文化財「服飾類(伝上杉謙信、上杉景勝所用)」(山形・上杉神社、室町時代~桃山時代)
上杉家初代の上杉謙信と米沢藩初代藩主の上杉景勝が使用したとされる服飾類。「金銀襴緞子等縫合胴服」は、謙信所用と伝えられ、舶来の裂をパッチワークのように縫い合わせた斬新なデザインが目を引く。戦国時代から近世初期にかけて活躍した武将を取り巻く当時の雰囲気を伝える。繊維の劣化が進んでいるため、生地の状態に合わせて損傷部分などの補修を行う。
国宝「泉涌寺勧縁疏」(京都・泉涌寺、鎌倉時代・1219年)
泉涌寺の開山・俊芿が寺を創建する際、寄付を募るために書いたもの。後鳥羽上皇に献上され、天皇家から絹を賜ったことで、寺創建の礎が築かれたという。当時の仏教や文化、書の技法などがうかがい知れる貴重な資料。欠損部分などを補修する。
重要文化財「板絵著色神像」(京都・宝積寺、鎌倉時代・1286年)
宝積寺に奉納された板絵。鎌倉時代後期の神像が複数描かれた貴重な作品だ。板絵が設置されていた「鎮守堂」は江戸幕末に焼けたが、この板絵は被災をまぬがれた。絵の具の剥落があるため、接着力を高めて保護する。
重要文化財「絹本著色文殊菩薩像」(京都・上品蓮台寺、鎌倉時代)
獅子に乗った姿の文殊菩薩像。よく知られた構図の仏画だが、上品蓮台寺の像は、新旧スタイルの融合が特徴だ。像が描かれている絹が、のりが剥がれて下地から浮き上がっており、小麦澱粉糊を補うなどの処置を施す。
重要文化財「方丈障壁画 長沢芦雪筆(45面のうち壁貼付1面)」(和歌山・成就寺、江戸時代・1786年)
「奇想」の画家の一人として人気の高い京都の絵師・長沢芦雪が、南紀(和歌山県)に赴き、伸びやかな筆で描いた障壁画。中国の隠せい詩人を取り巻く情景を描く。日常的に使われて傷みが進み、画が消えて失われることが心配される。建物から画面を取り外し、修理する。
国宝「後宇多天皇宸翰弘法大師伝(絹本)」(京都・大覚寺、鎌倉時代・1315年)
仏法の興隆に尽くした後宇多天皇が書写した、空海の伝記。天皇自ら文章を選んだとされる。書きづらいとされる絹本ながら、力強く、重厚な書風だ。空海や後宇多天皇と関わりの深い大覚寺で寺宝として伝えられてきたが、全体に横折れが生じ、亀裂も見られるため、本格的な解体修理を行う。
2020年4月5日付読売新聞朝刊より掲載