3月14日午後6時から、東京国立博物館で開かれる「日本博」オープニング・セレモニー記念公演「月雪花にあそぶ 日本の音と声と舞」。日本の伝統芸能の演者が集い、テクノロジーアートが彩る空間で至芸を披露する。この公演に出演する4人に意気込みを語ってもらった。(※記事末尾にお知らせあり)
第1回は、歌舞伎俳優の尾上菊之助さんと、文楽人形遣いの桐竹勘十郎さんによる特別対談をお届けする。二人はこの春、「義経千本桜」後半の主人公、狐忠信をそれぞれ勤める。
菊之助 この狐の人形、私も舞台で遣ったことがあるんです。
勘十郎 国立劇場のお正月公演でしたね。
菊之助 「小狐礼三」(2016年1月上演)の幕開きに、裃を着けて舞台で遣うことになり、「うまく扱えないんです」と勘十郎さんにご相談したら、携帯で撮影した実演の動画を送ってくださいました。耳をかいたり、振り返ったりする動きも全て動画で教えていただいて。勘十郎さんが遣う狐は本当に生きているよう。背骨がグッと動くんですよ。
勘十郎 直接お会いできたら良かったのですが、私は大阪にいましたので。短時間で素晴らしく上達されました。
菊之助 本当に難しかったです。
勘十郎 (狐忠信が登場する)「道行初音旅」の舞台は一面が桜で埋まっていますけれども、詞章には「桜が満開」とはどこにも書かれていない。「谷のウグイス」とか書いてある。でも、昔の人があんな大道具を考えた。これが舞台によく合うんです! 季節感を表現した先人の知恵を感じます。
――特別展では、そうした英知に触れられますね。
勘十郎 歌舞伎の「道行初音旅」の舞台を再現した展示が出ますし、私が飾り付けを担当する文楽コーナーでは忠信の人形も出します。体のマネキン人形に頭巾をかぶせて、人形遣いが本当に人形を遣っているように見せます。楽しみにしてください。
――お二人は古典を継承しつつ新作にも意欲的に取り組まれています。
菊之助 歌舞伎は時代時代で何度も危機が訪れましたが、そのたびに名優が出てきたり、新作が当たったりして、乗り越えてきました。古典の型、技術を守りつつ新作を生み出していく。私も古典、新作の両輪で動ける役者でありたいと思います。
勘十郎 菊之助さんが昨年末に主演された新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」を絶対見に行きたかったのですが、どうしても行けなくて残念でした。僕、セリフを全部覚えているぐらい「ナウシカ」が好きでして、歌舞伎がうらやましかった。「じゃあ文楽は『トトロ』やったらどうや」と話しています。文楽も夏休みにお子さん向けの新作をよく上演しています。
菊之助 うちの子供も、夏休みの文楽公演が大好きです。先人たちの型を受け継ぎつつ、そこに魂を入れるのは現代に生きている私や勘十郎さんです。ですから、古典は、同時に最先端でもあるのです。芸能だけでなく、たとえば和食にしても様々なものを吸収し、熟成させ、発展させています。日本はすごくイノベーティブ(革新的)で創意工夫の精神にあふれた国だと思います。
―― 今回のセレモニーについての抱負は。
菊之助 日本の文化がグッと集結したイベントで、琉球古典音楽から2.5次元ミュージカルまで時間を少しずつ分け合って同じ舞台に出る。これこそ「ワンチーム」。素晴らしい企画です。
勘十郎 僕も色々な方と一緒に「やりたがり」でして、少し前にはチェロと共演しました。文楽人形は、洋楽器だろうが落語であろうが、何にでも合わせられる。五輪の聖火リレーもぜひ人形でやりたかった。今回のセレモニーでも、色々な方たちのエネルギーをちょっとずつ吸収できたらいいなと、楽しみにしています。
義経千本桜
国立劇場(東京)の3月歌舞伎公演、国立文楽劇場(大阪)の4月文楽公演、国立劇場の5月文楽公演で、それぞれ通し上演される。狐忠信は、物語の後半で主人公となる子狐。鼓の皮になった親狐を慕う一心で、源義経の家来・佐藤忠信の姿に化けて現れる。
1953年、大阪生まれ。立役、女形の双方を遣う文楽界を代表するスター。けれん味あふれる「狐忠信」を当たり役にする。イラストの腕前も玄人はだし。
1977年、東京生まれ。二枚目の立役からかれんな女形まで、芸域は幅広い。国立劇場「義経千本桜」では狐忠信のほか、いがみの権太、平知盛という主人公3役の完演に挑む。
(読売新聞文化部 森重達裕)
(2020年3月1日付読売新聞朝刊より掲載)
※(2020年3月10日追記)文化庁は10日、日本博オープニング・セレモニーの生放送でのテレビ中継を中止すると発表しました。当日予定していた実演はスタッフのみで収録し、後日発信するとしています。今後の予定については、わかり次第このサイトでもお知らせします。
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