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2025.3.3

御後絵おごえ」 琉球国王の帯に金 — 修復へ 調査分析結果報告

太平洋戦争末期の沖縄戦で所在不明になり、昨年〔2024年〕3月に米国から沖縄県に返還された琉球国王の肖像画「御後絵おごえ」の修復に向け、専門家による委員会が方法を検討している。東アジアとの交流で培われた琉球文化の象徴を後世に残すべく、来年度の着手を目指す。

御後絵は、歴代の琉球国王が亡くなった際に描かれた肖像画で、戦禍で全て所在が分からなくなっていた。ほかの琉球国王・尚家関係資料は国宝に指定されており、国王の権威を直接的に示す御後絵は、第一級の資料となる。

第二尚氏13代尚敬王の御後絵
*写真はすべて沖縄県教育庁文化財課提供
第二尚氏18代尚育王の御後絵

今回返還されたのは4枚分の御後絵。うち2枚については、染織家で沖縄文化研究者の鎌倉芳太郎が1925年に撮影したモノクロ写真が残っており、18世紀前半に在位した、第二尚氏王統13代尚敬しょうけい王と、19世紀半ばの18代尚育しょういく王とみられる。中央に国王が大きく正面から描かれる構図は、冊封関係にあった明・清の皇帝の肖像画にも見られ、中国の影響を受けていることが分かる。

いずれも損傷や顔料の剥離はくりが見られるため、沖縄県は専門家による「返還文化財保存修復検討委員会」で、修復方法を検討してきた。昨年12月の委員会では、東京文化財研究所や沖縄県立芸術大などが昨年実施した調査分析結果が報告された。

報告によると、御後絵には中国製の唐紙、補強用の裏打ち紙は日本製の美濃紙が使用されていたことが判明した。蛍光X線分析で、国王の帯や香炉を描いた部分に、顔料として金が使われていることも分かった。また、13代尚敬王と、18代尚育王の御後絵を精査し、鎌倉が撮影した写真と細部まで一致していることも確認された。

蛍光X線による顔料分析の様子(昨年8月、那覇市の沖縄県立博物館・美術館で)

このほか、別の1枚は4代尚清しょうせい王、3分割された1枚は別の王の御後絵とみて調査を進める。

検討委委員長の田名真之・前沖縄県立博物館・美術館長(琉球史)は「素材や顔料など、修復に必要な基本情報を得ることができたので、結果を踏まえて修理を進めたい」としている。

御後絵は米マサチューセッツ州の退役軍人の住居の屋根裏にあった。退役軍人は太平洋戦域には従軍しておらず、入手の経緯は分かっていない。沖縄県は2001年、米連邦捜査局(FBI)の盗難美術品ファイルに、御後絵など所在不明の美術品を登録していた。退役軍人の死後、家族がファイルを見てFBIに相談したことで返還につながった。

(2025年3月2日付 読売新聞朝刊より)

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