2023.2.8
紡ぐプロジェクトの助成事業で修理する重要文化財「東妙寺文書」(佐賀県吉野ヶ里町・東妙寺蔵)の修理方針などを確認する協議が昨年、九州国立博物館(福岡県太宰府市)で行われた。
同文書は鎌倉時代の創建と伝わる東妙寺に伝来するもので、後醍醐天皇の綸旨、足利義満の御教書など中世文書を中心とする32通が3巻の巻物に仕立てられている。
東妙寺の早田空順住職(51)、修理を担う「修理工房 宰匠」(福岡県筑紫野市)や文化庁の担当者らが出席し、汚れや虫食い、折れなどの損傷状況を確認した。また、過去の修理で用いた補修紙が本来の色味と異なり、鑑賞の妨げになっていることなどが報告された。
修理は同博物館内で行われ、巻物を解体し、裏打ち紙や補修紙を外して汚れを除去、虫食い穴を同じ色合いの補修紙で補充して2024年度末までに仕立て直す。22年度は全体の2割まで終わらせる予定という。
早田住職は「修理の現場を拝見し、状況を把握できてよかった。安心してお任せしたい」と話した。
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紡ぐプロジェクトの2022年度の修理助成対象となった重要文化財「長命寺文書」(滋賀県近江八幡市・長命寺蔵)について、現状の確認や作業方針を話し合う会議が、大津市の坂田墨珠堂で開かれた。
平安~明治時代の古文書群(全4567通)で、このうち「穀屋文書」51通と、江戸時代に描かれた「長命寺参詣曼荼羅」3点を3年かけて修理する。
参詣曼荼羅は、長命寺の伽藍や門前町の繁栄ぶりが紙に華麗に描かれている。寄付や参詣を呼びかけるため尼僧が折り畳んで携え各地を巡り、人々に見せて寺や仏の霊験を説いた。
折り目を中心に紙の亀裂や絵の具の剥落が目立ち、穴が開いた部分もある。会議では、武内健斗副住職(34)や文化庁の担当者らが、劣化した部分を観察しながら修理技術者の説明を受けた。
紙を折ると摩耗や亀裂の原因になる。劣化を防ぐには折らずに保存すればよいが、参詣曼荼羅は持ち運ぶために折り畳まれ、現代まで伝えられた歴史的な経緯がある。
このため、負荷の少ない折り方や回数を検討し、補強のための裏打ち紙の厚みを調整するなど、折り畳んでも文化財の価値を損なわずに修理する方針を確認した。武内副住職は「難しい修理だが、知恵や技術を駆使して挑戦してくださり、ありがたい。3年後が楽しみ」と話した。
紡ぐプロジェクトとは
国宝や重要文化財、皇室ゆかりの名品、伝統文化、技術などを保存、継承していく官民連携の取り組み。文化庁、宮内庁、読売新聞社が2018年に開始した。展覧会の収益の一部や、企業からの協賛金などを活用し、文化財の修理を助成し永続的な「保存・修理・公開」のサイクル構築を目指す。これらの文化財の魅力や修理作業の経過に加えて、次世代に伝える伝統芸能、工芸の技術などを、紙面やサイトを通じて国内外へ情報発信している。
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