ロンドンで開催中の「海を渡った日本と皇室の文化」展は〔英国では〕あまり例がないテーマにスポットを当てていて、 350年を超える英王室と日本の皇室の美術交流や外交関係をたどっている。会場であるバッキンガム宮殿の「クイーンズギャラリー」では、表面がつややか過ぎず、漆であるかのような黒や赤の壁をこの展覧会のためにあつらえ、斬新かつとても優雅で、落ち着きのある展示スペースを整えた。展示品のほとんどが日本の皇室から贈られたものか、その意向で制作されたものであるところが興味をそそる。
いの一番に展示されているのは、本展にふさわしく、日本の統治者から英王室への最初の贈り物。1613年〔慶長18年〕に、徳川秀忠 〔江戸幕府2代〕将軍からイングランド王ジェームズ1世に贈られた甲冑だ。そのような事実もあるのに、日本の武家政権はその後、国の門戸を閉ざし、英国との外交関係は250年近くもの間断たれることになった。しかし、その間にも〔欧州の〕君主たちは交易商人を通じて日本の美術品を手に入れており、日本の磁器や漆のたんすといった異国情緒ある品物が当時の流行であったことを裏づけている。
鎖国が終わり、1860年〔万延元年〕になると、日本〔徳川幕府〕は色々な贈り物を取りそろえ、当時のビクトリア女王に送った。英日間で長きにわたって途絶えていた贈り物の交換が再開されたのだ。女王への贈り物の中には、見事な槍一式が含まれていた。長さが4メートル近くもあるこの槍(刃は1750~1850年、刀装具は1800~50年の製作)は、贅が尽くされ、漆塗りの上から精細な螺鈿細工が施されている。参勤交代の大名行列で下級武士が担いだであろう武具だ。
ほどなく、英国の王族や日本の皇族が両国を行き来するようになると、英王室と皇室の間に直接的なつながりもできあがっていった。ビクトリア女王の次男でエディンバラ公のアルフレッド王子は1869年〔明治2年〕に訪日し、日本が初めて迎え入れた外国の王族となった。 滞在は約4週間に及び、王子はその間いくつもの美術品を取得した。その後、それらが英国で展示公開されると、大いに称賛を集めた。
展示されている金工作品や漆芸品や絵画はうっとりさせられるものばかりだ。
象嵌が精細で装飾が凝りに凝っている一対の花瓶など、高尚な装飾品に交じって、1900~10年〔明治33~43年〕制作とされる「仁左エ門釜」の鋳鉄の花瓶が展示されている。簡素を極め、わびさびの美学を表しているこの作品は、本展では例外的な展示品と言える。1922年〔大正11年〕に訪日した当時のウェールズ公〔後の国王エドワード8世〕が取得したものと考えられている。
1975年〔昭和50年〕に日本を公式訪問した女王エリザベス2世は、20世紀の先駆的な陶芸家で、民芸運動の中心的存在であった濱田庄司による珠玉の花瓶を〔日本政府から〕贈られた。
公式なお祝いの品はもちろん、重大な節目である戴冠式の折にも贈られた。明治天皇は、1911年〔明治44年〕に戴冠したメアリー王妃〔国王ジョージ5世の王妃〕に小箪笥を贈った。帝国美術院の会員で、皇室の贈呈品をいくつも制作していた赤塚自得の作品で、豪華な金地を背景に、咲き誇る花々の上を孔雀が飛び立っている。菊花紋は皇室の贈呈品であることを示す印だ。
1953年〔昭和28年〕に戴冠した女王エリザベス2世には昭和天皇が漆芸品を贈った。1906年〔明治39年〕に帝室技芸員となった白山松哉による豪華な手箱で、本展で最も素晴らしい展示物の一つだ。蓋の光沢のある黒地にはサギの立ち姿があり、羽の白と銀のグラデーションが繊細なタッチで描かれている。
貴重な展示品はそのほとんどがガラスケースの中に置かれているが、2点の見事な刺繍屏風がその例外で、ガラス越しに見せるということをせず、来場者がこれらの作品の素晴らしさや良好な保存状態、絹糸の絵画効果を存分に鑑賞できるようにしている。写真の作品〔↓〕は、抑制された色彩で描かれた雄大な山の景色が日差しを受けて優しくきらめているようだし、川が私たちの目下で流れているかにも見える。
本展の多彩な展示品は普段各地の王宮で所蔵されているが、こうして一堂に集められると、「自然の美」こそが日本の宮廷美術の要諦であることが分かる。
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