京都国立博物館の特別展「京の国宝 守り伝える日本のたから」は、皇室に伝わる至宝の数々を展示している。
中でも鎌倉時代の絵巻で「やまと絵の集大成」として名高い「春日権現験記絵」は、皇室が伝えた文化財を象徴する作品で、今年7月、文化審議会が、国宝に指定するよう答申した三の丸尚蔵館所蔵品5点のうちのひとつだ。春日社の神々にまつわる物語を20巻にわたって精緻に描写し、絹に描かれた絵巻としては、現存するものでは最大規模という。
同館の太田彩首席研究官は「左大臣・西園寺公衡の発願で制作されたことが目録に書き残されています。宮中の絵師・高階隆兼が筆を執るなど、歴史的な大事業として作られ、天皇をはじめ限られた人だけが見ることが許されました」と説明する。
「感涙を禁じ得ない」
絵巻を見た後世の文人らは、その素晴らしさを書き残している。室町時代の公卿で歌人の三条西実隆は、前夜から神事を営んで臨み、「随喜の感涙を禁じ得なかった」とつづった。江戸時代には、天皇が閲覧される際に同席がかなった関白の近衛基熙が「詞といい絵といい比類ない。感涙で袖をぬらしてしまう。国宝というべきものだ」と書き残している。
皇室は1000年以上もの間、みずからが和歌や書などの「作り手」となって各時代の文化を育むとともに、貴重な文化財を保持、継承する役割を担ってきた。太田さんは「2004年から行った修理では、皇居で上皇后さまが育てられた蚕の糸で表紙の裂を作りました。これもまた皇室による文化財継承として意義深い。厳重に守り継がれ、色鮮やかで格調高い絵巻をぜひご覧いただきたい」と話している。