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2021.8.17

青い日記帳「斑鳩の里ではなく、上野で見られる法隆寺の寺宝」

聖徳太子1400年遠忌記念 特別展「聖徳太子と法隆寺」

特別展「聖徳太子と法隆寺」では、法隆寺金堂の国宝・四天王立像のうち、多聞天(右)と広目天が見られる

冠位十二階や十七条憲法を制定した聖徳太子。622年にこの世を去り、今年(2021年)は1400年遠忌おんきにあたります。かつての1万円札を含め、計7回も紙幣の肖像として使用された、まさに「お札の顔」でもあります。

しかし、はるか昔、飛鳥時代の人物がなぜ、1400年を経た現代でも多くの人に愛され、敬畏の対象となっているのでしょう。どんな歴史上の偉人でも、聖徳太子人気に勝るものはありません。

奈良・斑鳩の法隆寺に守り伝えられてきた寺宝や、太子の肖像や遺品と伝わる宝物、また、飛鳥時代以来の貴重な文化財を一堂に集め、太子その人と太子信仰の世界に迫る展覧会が「聖徳太子と法隆寺」。展示品は国宝、重文のオンパレードです。

ところで、法隆寺に行かれたことはありますか。学生時代に修学旅行で何となく連れて行かれたのではなく、自らの意思で訪れたことはおありでしょうか。知らない人はいない法隆寺ですが、実際に訪ねるとなると、交通の便も決してよくないため、何かのついででは行けません。

国宝「十一面観音菩薩ぼさつ立像」を有する聖林寺や、室生寺むろうじ、長谷寺など、大和路に点在する寺院もまたしかり。だから、こうしてわざわざ東京にまで寺宝を携えてやってきてくれることはとてもありがたく、何をおいても、見に行かねばならない好機なのです。

「聖徳太子と法隆寺」は、展示構成も完璧すぎるほど完璧で、中だるみもなく、最初から最後まで高い集中力を要する、非の打ちどころがない展覧会です。全てを推したくなりますが、つらつら書いても面白くないので、数字にまつわる3点に絞って紹介します。

展覧会の入り口で出迎えてくれる重要文化財・如意輪観音菩薩半跏像にょいりんかんのんぼさつはんかぞう
日本最古の四天王像

法隆寺金堂の内陣の四隅を守る、日本で最も古いとされる四天王像2体(広目天と多聞天)が、何と、東京国立博物館(東京・上野公園)で見られるのです。飛鳥時代(7世紀)に作られた国宝です。

一般的に、四天王像は派手な動きを伴い、怒りの形相で邪気を踏みつけている雄々しい姿の仏像ですが、法隆寺の四天王像は正面を向き、直立不動。杏仁あんにん形の目は、とても穏やかな表情を作り出しています。見る人によっては、こちらの表情の方が逆に恐ろしく感じるかもしれません。

赤外線写真がパネル展示されており、肉眼では見えない眉毛や唇、それにひげなども確認できます。驚いたことに、この2体は露出展示です。法隆寺金堂では、奥の方に鎮座し、よく見えない広目天と多聞天が、こんな近くで拝めるなんて、最高すぎます。

国宝・伝橘夫人念持仏厨子でんたちばなぶにんねんじぶつずし。その中に安置される阿弥陀あみだ如来および両脇侍像りょうきょうじぞうは近くで見られるような展示となっている
太子由来の七種宝物

聖徳太子が着用した袈裟けさや、太子の足跡(!)とされる7種類の宝物が、まとめて展示されています。これ初めてのことではないでしょうか。

糞掃衣ふんぞうえ梵網経ぼんもうきょう五大明王鈴ごだいみょうおうれい八臣はっしんの瓢壺ひさごつぼ御足印ごそくいん梓弓あずさゆみ六目鏑箭むつめのかぶらや利箭とがりや彩絵胡簶さいえのやなぐいの七つのお宝。

廃仏毀釈はいぶつきしゃくの波は法隆寺にも襲いかかり、お寺を維持することすら困難な状況となりました。そこで、明治11年(1878年)、宝物300件余りを皇室に献納。1万円を下賜され、何とか危機を乗り越えた歴史があります。

七種宝物しちしゅのほうもつ」はその宝物献納時の目録で筆頭に掲げられているものです。聖徳太子への信仰が長い時を経て脈々と受け継がれてきたことを示す、まさにお宝中のお宝です。太子が残した「御足印」は、心の目があれば、見えるはずです!

重要文化財の菩薩立像
10年に1度行われる「大会式」

法隆寺では毎年3月の聖徳太子の忌日に、その遺徳をたたえる法要として「聖霊会しょうりょうえ」が執り行われますが、大講堂で10年に1度行われる聖霊会は「大会式だいえしき」と呼ばれています。

その法要の主役ともいえるのが「舎利御輿しゃりみこし」です。法隆寺東院から西院の大講堂に「南無仏舎利」を「聖徳太子坐像ざぞう(伝七歳像)」と共に、御輿にのせて移動します。展示されている舎利御輿は、室町時代に作られたものです。

中世に作られた御輿が、補修を重ねつつ、今日まで法隆寺の大切な法要にて重要な役割を担い続けていることに、ただただ感心し、歴史の重みと信仰心に畏れ入る次第です。なお、今日見られる一般的な御輿は、この舎利御輿の形式を受け継いでいます。

さて、「四」天王像、「七」種宝物、「10年に1度」行われる大会式の御輿と、数字にまつわる展示を紹介しましたが、これらは、200点近くある展示品の中の、ほんの一握りに過ぎません。他にも、二歳像や十六歳像など、様々な姿で表されてきた聖徳太子像も必見です。

聖徳太子立像(二歳像)と南無仏舎利

金堂「東の間」の本尊である国宝「薬師如来坐像」など、信じられない寺宝まで東京にお出ましです。特別展「聖徳太子と法隆寺」を見逃したくありません。斑鳩の里ではなく、上野で見られるのですから。

※写真は中村剛士さん提供

「聖徳太子と法隆寺」展を見てみたくなったら、こちらへ
中村剛士

プロフィール

ライター、ブロガー

中村剛士

15年以上にわたりブログ「青い日記帳」にてアートを身近に感じてもらえるよう毎日様々な観点から情報を発信し続けている。ウェブや紙面でのコラムや講演会なども行っている。著書に『いちばんやさしい美術鑑賞』『失われたアートの謎を解く』(以上、筑摩書房)、『カフェのある美術館』(世界文化社)、『美術展の手帖』(小学館)、『フェルメール会議』(双葉社)など。 http://bluediary2.jugem.jp/

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