紡ぐプロジェクトの今年度修理助成事業の対象となった重要文化財「木造智証大師坐像」が5月14日、所蔵する若王寺(京都府精華町)から京都国立博物館内の文化財保存修理所に運ばれた。約1年かけて剥落止めなどを進めていく。
平安時代初期に活躍した天台宗の高僧、智証大師・円珍(814~891年)の像(高さ86・4センチ)で、平安後期の作とみられる。
唐で密教を学んだ円珍は帰国後、三井寺(園城寺、大津市)を再興し、5代目の天台座主も務めた。この像は円珍の死に際して作られたと伝わる三井寺所蔵の彫像「御骨大師」(国宝、平安前期作)を忠実に写した模刻で、とがった頭の形や眉根を寄せた半眼、ほほえんでいるような口元には親しみを感じさせる。
一木造りの御骨大師に対し、この像はヒノキの寄せ木造り。文化庁の井上大樹・文化財調査官は「姿は御骨大師にならっているが、穏やかな顔の作風や技法に平安後期の時代様式が表れている」と話す。
修理を担当する美術院(京都市)の松井海音子・主任技師らが、慎重に間口の狭い厨子から像を外に出した。像は額や右頬などの表面が細かく割れて浮き上がり、袈裟の縁などでは木地が露出している。剥落の恐れがある部分は膠や樹脂などで対策を施すほか、虫食い穴の補修、汚れの除去なども行う。松井主任技師は「全体を丁寧に修理し、台座の構造も精査して強化したい」と話した。
なぜ若王寺に三井寺とそっくりの像が安置されているのかは不明だが、疫病が流行した際、この地で円珍が祈りなどをささげた言い伝えに由来する、との説もある。檀上幸裕住職(49)は「地域の檀家さんにも大切に守られてきたお像。この地で長く後世に伝えていきたい」と語る。
読売新聞大阪本社文化部・持丸直子、写真はすべて河村道浩撮影
(2021年7月4日付読売新聞朝刊より掲載)
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