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2022.1.17

【22年度修理品から④】重文・毘沙門天立像~眉をひそめた憂いの表情

2022年度の「紡ぐプロジェクト」修理助成事業は、新たに重要な国宝や重要文化財など6件が対象に決まった。このうち京都・乙訓寺蔵の仏像を紹介する。

重文 毘沙門天びしゃもんてん立像りゅうぞう (京都・乙訓寺蔵)

毘沙門天立像

甲冑かっちゅうを身につけた仏教の守護神・毘沙門天は、怒りの表情を浮かべていることが多いが、乙訓寺の像は、眉をひそめた憂いある表情から「幽愁の毘沙門天」との異名を持つ。

穏やかな顔立ちは平安時代後期の作にみられる特徴だ。その頃、京都を中心に活躍した仏師たちの作風を典型的に表している。

全身を覆う造立当初の彩色や文様は、今も良好な状態で残る。甲冑や衣の部分には、細く切った金箔きんぱくを貼る「截金きりかね」の文様が様々に施されており、その種類の多さや彩色に使われた顔料の質の高さは特筆に値する。

ただ、像の各所で彩色が浮き上がり、表面はひび割れも進行中で、一部では剥落はくらくが始まっている。貴重な彩色層を失わないためにも対策が求められており、修理は、全体の汚れを落とした後、彩色や截金などに剥落止めを行う。左手に載せた宝塔や、光背、台座も修理する予定だ。

乙訓寺の川俣海雲住職(京都府長岡京市で)

乙訓寺住職の川俣海雲かいうんさん(50)は「収蔵庫で正面からいつも見ていたが、そんなに傷んでいるとは気づかなかった」と語る。

2019年、専門家に調査、点検してもらったところ、背中の部分を中心に状態が悪く、「早急に修理の必要がある」と言われたという。

乙訓寺は平安時代、高僧の空海と最澄が初めて出会ったと伝わる古刹こさつ。境内では4年前の台風被害の修理が続いており、資金確保が課題だった。

「修理の緊急性が認められて選んでいただき、驚くとともに大変感謝しています」と表情を緩めた。

(2022年1月9日読売新聞から)

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