神護寺に伝来する巨大な俗体肖像画で、同寺所蔵の伝平重盛像、伝藤原光能像とあわせ「神護寺三像」と呼ばれる。『神護寺略記』によれば、かつて仙洞院に藤原隆信(1142~1205)の筆になる後白河院、平重盛、源頼朝、藤原光能、平業房の肖像画が安置されていたというが、この一幅はその一部として重宝されてきた。ただし像主と制作年代については異説も提出されている。
継ぎのない大きな一枚絹を用い、表裏から種々の彩色を施して、袍や平緒の文様も精緻に描く。淀みなく研ぎ澄まされた描線が微細な毛の質感さえも見事に再現し、唇や耳に施した極めて微妙な朱の諧調が肌に精彩を加えている。いっぽう、こうした細部の迫真性にもかかわらず、画面全体は、明瞭な直線で構成される強装束強装束などの幾何学性・抽象性によって、冷ややかな緊張感さえ漂う高潔な気品が醸し出される。技巧の弛むことない細部と観る者を圧するような全体が調和した、大和絵における肖像表現の極北に位置する名品である。
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