日本美を守り伝える「紡ぐプロジェクト」公式サイト

2024.1.12

【修理の時、来たる3】宋の百科事典 円爾持ち帰る ― 国宝「宋版太平御覧ぎょらん」(京都・東福寺蔵)

2024年度「紡ぐプロジェクト」修理助成対象選定

国宝「宋版太平御覧ぎょらん 京都・東福寺蔵
約1000年前の中国・宋の時代に編さんされた百科事典。中国で製作した材料に合わせて素材を選ぶ必要がある

2024年度の「紡ぐプロジェクト」修理助成事業は、兵庫県から国宝「聖徳太子および天台高僧像こうそうぞう」(一乗寺蔵)、三重県から重要文化財「聖徳太子勝鬘経しょうまんぎょう講讃こうさん図(西来寺せいらいじ蔵)、福井県から同「八相はっそう涅槃ねはん図」(つるぎ神社蔵)が初めて申請されるなど地域的な広がりを見せ、過去最多の9件に決まった。いずれも劣化が進み、特に絵画や文書は折れや染みなどが顕著という。貴重な文化財を後世に伝えるため、素材を調査し修理方法を検討したうえで、1年~数年の作業が始まる。

 

「太平御覧」は、中国の北宋第2代皇帝太宗たいそうの勅命で、文臣の李昉りぼうらが編さんした百科事典。977年から6年余りをかけて完成した。

日本には、東福寺を開山した円爾(聖一国師)が1241年(仁治2年)、宋から帰国する際に持ち帰った。

大きなしみ、破れなど傷みが目立つ。仕立て直しなど修理には時間がかかりそうだ

目録など3冊と本文100冊からなる。1冊に10巻を収録し、1000巻にも及ぶ書物全巻が伝わる。中国には現存せず、当時の中国の文化などがうかがえる貴重な史料だ。

太平御覧は1000巻に及び中国にも現存していない

ただ、虫食いによる欠落や、後世の修理による裏打ちなどの補修部分の劣化がみられるという。剥落はくらくを止め、古い裏打ち紙や補修紙を除去し、補修、製本の仕立て直しなどを進める。中国で製作した書籍に合わせて、使用する材料には十分な吟味が必要だ。2030年度の完了を目指している。

(2024年1月7日付 読売新聞朝刊より)

Share

0%

関連記事