日本美を守り伝える「紡ぐプロジェクト」公式サイト

2024.1.12

【修理の時、来たる6】柔和な顔立ち 女性の信仰 ― 重文「厨子入普賢菩薩像ふげんぼさつぞう」(京都・岩船寺がんせんじ蔵)

2024年度「紡ぐプロジェクト」修理助成対象選定

2024年度の「紡ぐプロジェクト」修理助成事業は、兵庫県から国宝「聖徳太子および天台高僧像こうそうぞう」(一乗寺蔵)、三重県から重要文化財「聖徳太子勝鬘経しょうまんぎょう講讃こうさん図(西来寺せいらいじ蔵)、福井県から同「八相はっそう涅槃ねはん図」(つるぎ神社蔵)が初めて申請されるなど地域的な広がりを見せ、過去最多の9件に決まった。いずれも劣化が進み、特に絵画や文書は折れや染みなどが顕著という。貴重な文化財を後世に伝えるため、素材を調査し修理方法を検討したうえで、1年~数年の作業が始まる。

 

岩船寺本堂の普賢菩薩像は像高約39センチ、像を乗せる白象は高さ約27センチ、像はクスノキ材の一木造り、白象はヒノキ材を用いている。本尊・阿弥陀如来坐像(重要文化財)の後方にまつられている。表面は彩色仕上げで朱、緑青などが残る。作者は特定できていない。

前回修理から100年を過ぎ劣化が目立つ。厨子も修理が必要だ

普賢菩薩像は平安時代、成仏を願う女性の信仰を集めたという。ほっそりとした体つき、彫りが浅い柔和な顔立ちなど、平安後期制作の特徴がみられる。台座の一部、白象、光背は後に補ったようだ。

像の入る厨子ずしは高さ約150センチ。表面に布を貼り、上から黒漆を塗っている。厨子内部の壁に描く曼荼羅まんだらから南北朝時代の制作とみられる。墨書銘から1519年(永正16年)に修理し、扉、白象、本像の両手首などをこのとき補修したと推定される。直近の修理は1911年(明治44年)で100年を過ぎている。

昨年、展覧会に出展する際に調べると、像表面の彩色が所々浮き上がり、剥落はくらくが進んでいた。厨子も同様の劣化がわかった。

岩佐選考委員長は「これ以上、剥落が進まないように安定した形にすることが急務」と指摘した。修理は2025年度の完了を目指す。

(2024年1月7日付 読売新聞朝刊より)

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