2022年度の「紡ぐプロジェクト」修理助成事業は、いずれも重要な国宝や重要文化財など6件が新規に加わった。このうち京都・上品蓮台寺所蔵の国宝を紹介する。
10メートルを超える巻物の下部に、釈迦の伝記である「過去現在因果経」を、上部にその代表的な場面を挿絵のように描いた経典だ。
少年時代の釈迦が七つの的を1本の弓矢で一度に射抜く場面や、城門から外に出て初めて病人を見る場面、田を耕す場面などが、色鮮やかな絵の具で描かれている。
中国から伝来したと思われる原本を、奈良時代に書き写した。だが、中国では同時代の同様の絵因果経の現存は確認されておらず、アジアの仏教文化圏を見渡しても貴重な品。加えて、日本の絵画としては最古の部類に属し、平安時代以降に発展する絵巻物の原型となるなど、日本絵画史においても重要な意味を持つ。
古い様式を今に伝える絵画と端正な楷書は、どこか親しみやすさを感じさせる。いにしえの人々がこの経典を眺め、仏教の世界へいざなわれたことに思いをはせるのも面白い。
経年劣化により、紙の汚損や裏に貼った
奈良時代の絵画の修復が行われること自体が珍しく、当時使用されていた絵の具の原料などについて、修理の過程で明らかになることも期待される。
(2022年1月9日読売新聞から)
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