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2024.1.11

玉三郎の舞 しっとりと —「黒髪」「由縁の月」

大阪松竹座 2024年「初春お年玉公演」

日本舞踊の魅力の一つは、多彩な三味線音楽にある。情景や心情を織り込んだ「唄物うたもの」とストーリー重視の「語り物」に大別され、唄物は長唄ながうた端唄はうた地唄じうた(歌)、語り物は義太夫、常磐津、清元……と豊かなバリエーションを持つ。

「由縁の月」の衣装を着けた玉三郎 ⓒ下村一喜、松竹提供

京大阪で座敷舞として発展した上方舞の演奏には、地唄が使われる場合が多い。上方舞を「地唄舞」と呼ぶ由来でもある。

踊りの名手で、歌舞伎女形の人間国宝・坂東玉三郎は今月〔2024年1月〕、初春恒例の大阪松竹座公演で地唄舞に光を当てて、名曲「黒髪」「由縁ゆかりの月」を披露している。

複数の三味線弾きと唄い手、囃子はやし方が並び、華やかな長唄に対し、地唄は弾き手と唄い手が1人ずつ、あるいは1人による弾き唄いに箏や胡弓こきゅうが加わるシンプルな編成。舞台装置も屏風びょうぶ燭台しょくだいと実に簡素だ。

江戸の長唄を地唄に移した「黒髪」は、 〽黒髪の結ぼれたる思ひをば――と唄い出され、女性が独り寝の寂しさを嘆く。目覚めると外は一面の雪。つややかな黒髪もいずれは白髪に変わる。降り積む年月の残酷さ、むなしさを象徴する。

「由縁の月」は、上方歌舞伎「吉田屋」で知られる、早世した遊女・夕霧と伊左衛門の悲恋が題材。別人に身請けされ、恋人に会えない遊女の哀切が、美しい旋律で奏でられ、随所にくるわの風情もにじむ。2曲とも、人の世のはかなさや孤独、寂寥せきりょうが主題になっている。

玉三郎は「動きが少ない中で、音楽に乗って凝縮された舞の魅力を表現したい」と語る。その舞姿は、一幅の絵さながらに、秘めたドラマも感じさせる。

大阪松竹座のロビーには公演期間中、巨大な玉三郎のポスターが登場し、来場者が記念撮影する姿も見られた(松竹提供)

趣向を凝らした「お年玉」の一幕も用意されている。「天守物語」の一場面では、映像技術を駆使し、いずれも玉三郎演じる富姫と亀姫の“初共演”が実現した。玉三郎自身の箏曲演奏や唄も堪能できる。

芝居街の伝統を伝える大阪・道頓堀に100年続く大阪松竹座。公演では、玉三郎が劇場のバックステージや道頓堀の歴史を紹介する映像も流れる。にぎやかな初芝居も心弾むが、今年はしっとりと、心に染みいる地唄舞に酔い、迎春のひとときをかみしめたい。

(編集委員 坂成美保)

◇ 坂東玉三郎の大阪松竹座連続公演

「初春お年玉公演」は〔2024年1月〕14日まで。18~20日は、落語家・春風亭小朝とのステージ「はるのひととき」。小朝の語りと玉三郎の歌が響き合う「越路吹雪物語」、小朝の落語「芝浜」、玉三郎の地唄舞「雪」で構成。玉三郎は「小朝さんはスポンジみたいに、何でも吸収して受け入れてくれる方なので、僕が自由に演じていれば、どんどん導いていってくれます」と信頼を寄せる。〔1月〕26~28日のコンサート「星に願いを」では、「星」をテーマにした曲を選ぶ。

「学生さんを始め、色んな方に見ていただきたい」という玉三郎の発案により、「初春お年玉公演」には1500円のC席、「はるのひととき」とコンサートには2000円の4等席を設けた。(電)0570・000・489。

(2024年1月10日付 読売新聞夕刊より)

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