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2023.12.7

【修理リポート】国宝「薬師如来坐像」(奈良・新薬師寺蔵)― 傷んだ台座、分解し搬出

紡ぐプロジェクトの助成対象となった、国宝「薬師如来坐像ざぞう」(奈良・新薬師寺蔵)、重要文化財「仏涅槃ねはん図」(岡山・遍明院へんみょういん蔵)の修理に向けた調査、確認を行った。前回の修理から劣化が進んでいるため、慎重な作業が必要となる。

薬師如来坐像を台座から移す(奈良市で)=宇那木健一撮影

新薬師寺(奈良市)の国宝「薬師如来坐像」(平安時代前期)は、直近の修理から70年が経過し、傷みの激しい台座を主に修理することとした。

台座は、仏像の衣がかかる装飾が施された「裳懸もかけ座」の形式で、本堂内で分解して状態を確認した。虫食いのほか表面の欠損や陥没が新たに見つかり、早急に修理が必要とわかった。

分解された台座の一部。裏返して傷みを確認した

作業に立ち会った文化庁の井上大樹・文化財調査官は「台座は地面からの湿気を受けやすく、かなり損傷している」と指摘した。

分解した台座は〔2023年〕10月、奈良国立博物館の文化財保存修理所へ移して修理を始めた。2か年計画で行う予定だ。

台座の搬出には、薬師如来坐像の周囲を取り囲む十二神将じゅうにしんしょう立像りゅうぞう(うち11体が国宝)を移動させる必要があった。土でできた塑像そぞうの十二神将立像はもろく、わずかな衝撃でも割れたりする恐れがある。エアジャッキで台座ごと持ち上げ、隙間にプラスチックのシートを敷いて上を滑らせるようにして移動する作業は慎重を極めた。

並行して、薬師如来坐像本体や光背などの修理を本堂で約1か月かけて行った。本体の修理は1903年以来だが、ほこりの付着や、修理箇所の変色などが見られた程度で、台座に比べ良好な状態だった。ほこりを除去し、変色した部分が目立たないよう周囲となじむ色にした。

頭部の状態をチェックする
裾の傷んだ部分を修理する

光背は、化仏けぶつをはずして、傷み具合を確認。鉄くぎに腐食やさびが見つかったため、除去したうえで、樹脂を塗ってさびを防ぐ処置を行った。

光背の剥落はくらく止め

中田定観住職(79)は「ふだん気づかない台座の傷みを修理できて、ありがたい気持ちでいっぱいだ。修理後も参拝者には見えない部分だが、ご本尊を将来に守り伝えるうえでたいへん大きな意義がある」と語った。

薬師如来坐像を囲む十二神将立像を元の位置に戻す

紡ぐプロジェクトとは

国宝や重要文化財、皇室ゆかりの名品、伝統文化、技術などを保存、継承していく官民連携の取り組み。文化庁、宮内庁、読売新聞社が2018年に開始した。展覧会の収益の一部や、企業からの協賛金などを活用し、文化財の修理を助成し永続的な「保存・修理・公開」のサイクル構築を目指す。これらの文化財の魅力や修理作業の経過に加えて、次世代に伝える伝統芸能、工芸の技術などを、紙面やサイトを通じて国内外へ情報発信している。

(2023年12月3日付 読売新聞朝刊より)

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