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2023.5.10

【修理リポート】国宝「泉涌寺勧縁疏」(京都・泉涌寺蔵) にかわ使い絵の具再接着

泉涌寺せんにゅうじ(京都市東山区)に伝わる国宝「泉涌寺勧縁疏かんえんそ」の修理作業が完了し、京都国立博物館(京都市東山区)内の文化財保存修理所で〔2023年〕3月、所蔵者らへの報告会が行われた。

修理を終えた泉涌寺勧縁疏に見入る上村貞郎長老(左から3人目)ら(京都国立博物館で)

勧縁疏は寺を創建した俊芿しゅんじょうが鎌倉時代の1219年、寄付を募るために作成した。中国の様式にならった本格的な寺院をつくりたいという趣意書で、後鳥羽上皇に献上し、寺院創建の礎を築いたとされる。

経年による劣化が進み、墨とその下に塗られた絵の具の接着力が弱まり、一部が剥げ落ちるなど文字が見えづらくなっていた。修理を担当した「修美」によると、にかわを使って絵の具を再接着したほか、亀裂が生じた部分を裏側から補強し、裏打紙を取り換えるなどした。

大野恭子技師長は「修理用の水の使い方に細心の注意を払った。汚れなどを除去し、文字の雰囲気などを維持することができた」と話した。

泉涌寺の上村貞郎長老(84)は「私の代に修理をしていただき、感謝の気持ちでいっぱいだ。並外れた集中力が感じられる俊芿律師が書いた文字を後世に長く残していきたい」と話していた。

(2023年5月6日付 読売新聞朝刊より)

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