西福寺(大阪府豊中市)が所蔵する重要文化財「紙本墨画蓮池図」は、江戸時代中期に活躍した絵師・伊藤若冲が手がけた貴重な水墨画だ。全6幅が京都国立博物館(京都市)内の文化財保存修理所に移された。
画題は池に浮かぶハス。清らかな白い花や朽ちた実、ポツポツと穴の開いた葉などが余白の多い画面に表現されている。
天明の大火(1788年)で京都の家を失い、同寺の檀家だった薬種問屋に迎えられた若冲が、本堂のふすま絵として制作した。荒涼とした雰囲気が漂うが、焦土と化した京都の復興への希望を込めたという見方もあり、今も人々を引きつける作品だ。
当初は金地に色とりどりの鶏やサボテンを配した代表作「仙人掌群鶏図」の裏側に描かれ、1930年に行った修理の際、6幅の掛け軸に改装されたという。寺ではほぼ毎年、虫干しを兼ねて公開してきたが、損傷がひどい状態だった。
いずれも絵の描かれた本紙とそれを裏から支える裏打紙の接着が弱まっており、折れが数多く生じている。担当する松鶴堂(京都市)の袴田尚志技師長は「ふすま絵で傷んだ部分と掛け軸になったことによる傷みが混在している。脆弱な紙に描かれているので、慎重に作業を進める必要がある」と説明する。
3年かけて行う修理は、古い裏打紙を取り換えて本紙を強化する作業が中心となる。さらに、折れに沿うように裏側から細い和紙を貼って補強し、表具も新調する方針だ。
西福寺の榎原清了住職は「後世に伝えていくのが難しいほど、傷みの激しい部分があり、修理が実現したのはうれしい。今後の修理や、調査にも注目していきたい」と話した。
(2021年6月6日読売新聞から)