日本美を守り伝える「紡ぐプロジェクト」公式サイト

2024.7.9

【修理リポート】 国宝「弥勒仏坐像みろくぶつざぞう」(奈良・興福寺蔵)― 像表面が劣化 応急処置後に搬出

搬出作業前の興福寺の弥勒仏坐像(中央)

文化庁、宮内庁、読売新聞社による「紡ぐプロジェクト」の2024年度修理助成事業の対象に選ばれた奈良・興福寺(奈良市登大路町)の国宝「弥勒仏みろくぶつ坐像ざぞう」が〔2024年〕6月19日、奈良国立博物館(同)の文化財保存修理所に向けて運び出された。

興福寺北円堂の本尊・弥勒仏坐像は、両脇に立つ無著菩薩ぼさつ像、世親菩薩像(いずれも国宝)とともに鎌倉時代の仏師、運慶が一門を従えて制作した。運慶の円熟の境地を示す晩年の傑作として知られる。

像高約141センチ、カツラ材を用いた寄せ木造り。像の表面に漆を塗って、その上に金箔きんぱくを貼った漆箔の像で、八角形の裳懸座もかけざの上に座る。

1983年に本体の修理を行ってから約40年が経過し、像表面の仕上げ層の劣化が進んでいることがわかった。特に本体背面の漆箔層の浮き上がりを止め、台座の虫食いや損傷部分の材質強化が急がれる。

搬出のため、台座から外される弥勒仏坐像(6月19日、奈良市の興福寺で)

今回の搬出に先立ち、13日には、修理を担当する美術院(京都市下京区)の技師らが像の応急処置を行った。輸送中に漆箔層が剥がれ落ちるのを防ぐため、漆箔の浮き上がりが著しい背面の数か所に、紙を貼った。19日には像を本体、台座、光背に分け、それぞれ薄葉紙などで丁寧に包み、担架に取り付けて輸送車に運び入れていた。

修理は年度内の完了を目指す。興福寺は毎年春と秋に特別公開を行い、多くの参拝客を集めているが、今秋の公開は中止を決めた。修理後は2025年に東京都内で展示する予定だ。

興福寺国宝館学芸員で境内管理室次長の多川文彦さん(46)は「われわれは文化財をずっと残していく使命を持っている。今回の修理は、本体が約40年ぶり、台座と光背は約90年ぶりとなる。よりよい修理をしていただき、ご本尊が無事に北円堂に戻ってくることを期待している」と話した。

(2024年7月7日付 読売新聞朝刊より)

Share

0%

関連記事