紡ぐプロジェクトの修理助成事業で、2020年度に修理を終えた作品の紹介シリーズ5回目は、京都・宝積寺の重要文化財をリポートする。
重要文化財「板絵著色神像」(京都・宝積寺蔵、鎌倉時代・1286年 4面のうち2面を修理)
日本の神仏習合の神々を描いた宝積寺(京都府大山崎町)所蔵の重要文化財「板絵著色神像」2面の修理が終わった。2月10日、京都国立博物館の文化財保存修理所に関係者が集まり、作業内容や仕上がりについて報告された。
鎌倉時代の1286年に制作され、疫病退散の力を持つとされた「牛頭天王」や「北野大明神」などが描かれている。当初は宝積寺の鎮守堂に掛けられていたが、禁門の変(1864年)の頃に建物が焼失。板絵は難を逃れ、現在、計4面が京都国立博物館に寄託されている。大山崎町歴史資料館の福島克彦館長によると、これほど古い時代に神々の姿を描いた絵が残るのは珍しい。
制作当初は彩色が施されていたと考えられるが、多くは剥げ落ち、現在は白い絵の具層と墨の輪郭線が残る。絵の具層は多くの箇所で浮き上がり、わずかな衝撃でも剥がれ落ちそうな状態になっていた。
昨年6月に始まった修理では、浮き上がった箇所を膠の水溶液で板に接着。さらに濃度の異なる膠水溶液を使い、画面全体の剥落を防ぐ処置を施した。その結果、絵の具の浮き上がりによる表面の凹凸がなくなり、表情や着物の柄などがより鮮明に見えるようになった。
修理を担当した岡墨光堂(京都市)の小笠原具子技師長は「筆先で触れるだけで絵の具が剥がれ落ちる恐れがあり、細心の注意を払って作業した。湿りを与えすぎると、板にゆがみが生じたり、色が変わったりするので、用いる膠は極力少なくした」と振り返る。
宝積寺の寺石典亮院代は「文化財を未来に伝える技を持つ人たちがいるのは心強い。人の手で時間をかけて守られてきたからこそ、今の文化財がある。私たちも未来永劫守っていきたい」と話した。
残る2面の修理は、2021年度に行われる。
(2021年5月2日読売新聞より掲載)
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