国宝「
知恩院の早来迎は鎌倉時代の仏画の傑作とされ、阿弥陀如来が雲に乗り、臨終にある人のもとへ、極楽へのお迎えにやってくる場面が描かれている。「紡ぐプロジェクト」での修理は3年計画で、2019年4月に同修理所内の「光影堂」(大菅直社長)に搬入され、修理前の調査、解体、表面の絵の具の
2020年は、絹に顔料で絵が描かれている「本紙」を支えるため、裏に貼られていた「肌裏紙」を取り除く作業を進めた。1934年に前回の修理が行われた記録があるが、その際、肌裏紙は外されておらず、繊維状に固まってしまった部分も多くあった。
本紙の裏側の状態が確認できるのは、修理が行われるときだけ。修理は貴重な文化財調査の機会でもある。
今回は、透過光を当てながら赤外線撮影を行うことで、本紙裏に墨で描かれた下描きをはっきり確認することができた。さらに、下描きにはなかったが、表から描き足された箇所があることも明らかになったという。
例えば、阿弥陀如来の左手の下あたりや、本紙左上の雲などで、主任技師の沖本明子さんは「仕上げの段階になって、最後に全体のバランスを確認して描き足したのでしょう。細部まで繊細に、こだわり抜こうとする作り手の思いが伝わります」と話す。
また、早来迎には、群青など貴重な材料も使われていることも判明した。京都国立博物館・保存修理指導室長の大原
早来迎は誰が作らせたものなのか、誰の手によるものなのか、いずれも明らかではないが、「これだけの貴重な絵の具を任せられるということからも、上流階級の人物が一流の絵師に頼んだものであるのは明らかでしょう」と強調した。
そのほか、同じ白色でも、
修理前に施されていた肌裏紙などは黒みがかっていたが、今回は、それより明るめの色味のものが採用された。その結果、菩薩らの周囲に描かれていた木々や川の流れもはっきりと見えるようになった。枝葉の先まで美しく描かれていることに、専門家らからも感嘆のため息がもれていた。
今後は、本紙の周りに施される
知恩院の前田昌信執事は「修理を経て、細かいところにはこんなものまで描かれていたのかという発見もありました。改めて素晴らしい絵師によって描かれたということが分かり大変ありがたい。完成が楽しみ」と期待を込めた。
(読売新聞事業局デジタルコンテンツ部 内田淑子)
【動画】「ためになるようにせい!」 知恩院・前田昌信執事が次世代につなぐ心について語ってくださいました
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