文化庁、宮内庁、読売新聞社による「紡ぐプロジェクト」の今年度の文化財修理助成事業で、成就寺(和歌山県串本町)所有の重要文化財「方丈障壁画 長沢芦雪筆」45面のうちの1面が対象となり、7月20日、寺から京都国立博物館(京都市)内の文化財保存修理所に搬送された。
寺には、江戸時代の絵師・長沢芦雪(1754~99年)が現在の和歌山県南部に滞在した際に描いた障壁画45面が残されていた。44面は和歌山県立博物館に寄託されたが、1面は壁に貼り付けられていたため搬出できず、劣化が進んでいた。
今回搬送されたのは残りの1面で、中国の詩人を題材にした「林和靖図」の一部(高さ1.75メートル、幅1.87メートル)。この日は、修理技術者らが約40分かけて、本紙を壁から丁寧にはがした。
成就寺の大崎克己住職(74)は修理に先立ち、「一点だけ残っていた絵も去ってしまうのは、正直なところ寂しい。しかし、年々破損がひどく気になっていた。紡ぐプロジェクトのご縁で、今回修理していただけることを大変喜んでいる。もう二度と現れない作品であり、後世に残して多くの方にご覧いただきたい」とあいさつ。作業を始終見守り、最後は合掌して絵を送り出した。
作業に立ち会った県立博物館の新井美那学芸員は「芦雪は写生を得意とした円山応挙の高弟で、紀南には応挙の名代としてやってきた。多くの作品を手がけている絵師だが、この作品は制作時期がはっきりとわかっており、芦雪の基準作として貴重なもの」と美術史的な価値を説明し、「修理後には、既に当館でお預かりしている残りの絵と合わせて、『林和靖図』すべてを展示できたらと考えている」と話していた。
芦雪は1786~87年に県南部に滞在、成就寺をはじめとする複数の寺に数百点の作品を描き残したとされる。
当日の作業の様子を、紡ぐプロジェクト公式Twitterで詳しくリポートしました。
(読売新聞和歌山支局新宮通信部 大場久仁彦、紡ぐプロジェクト事務局 沢野未来、撮影・写真部 長沖真未)
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