平安時代の絵画が、いまなおその美しさで私たちを魅了し、鎌倉時代の彫刻が力強く見る者を圧倒する――。文化庁、宮内庁、読売新聞社が進める「紡ぐプロジェクト」では、日本の美を次の世代に守り伝えるために不可欠な修理事業に取り組んでいる。
紙や絹などの布、木など
国宝や重要文化財などの美術工芸品は、国から個人まで、様々な人や団体が所有している。良い状態で後世へと継承していくためには約100年ごとに修理を施していく必要があるが、例え国宝でも、国がその費用を全額負担するのではない。自治体によって補助が出る場合もあるが、所有者の負担が大きく賄いきれない場合もある。
修理が行われなくなると、文化財はどんどん劣化し、取り返しのつかない状態になってしまう。また近年では、地震や台風などの自然災害によって、文化財が被害を受ける例も多い。
そこで、企業や財団などの民間資金で修理費を助成する取り組みが広がりつつある。紡ぐプロジェクトでは、協賛社からの協賛金と、紡ぐプロジェクトが開催する展覧会の収益の一部を修理費に充てることで、文化財の「保存・修理・公開」という一連のサイクルを、永続的に回すことを目指している。
修理の第一段階は調査から始まる。紡ぐプロジェクトで2019年度から3年かけて修理を行う国宝「
修理方針を決める際、もとの素材を再度使うか、新たに用いる和紙の色をどうするかなどは、所有者のほか、文化財を保存、継承、活用するための専門家である文化庁の調査官や研究者、修理所の担当者らが協議して決める。作られた当時の姿に戻すというより、現状を保ち、さらに50年、100年後に再び修理しやすいよう材料を選ぶという。
こうした作業の「技」そのものの伝承も大きな課題になっている。
文化財保護法では、文化財の保存のために欠くことのできない伝統的な技術などのうち、後継者不足などで担い手が少なく、対策が必要なものを「選定保存技術」として選定し、その保持者や団体を認定している。その中には、修理作業そのものはもちろん、その作業のための道具や、材料である和紙など製作する技術者も含まれる。和紙などは、さらにそれを作るための原材料の生産者も少なくなっている。
紡ぐプロジェクトでは、2020年度の修理助成事業の対象となる文化財を2019年12月20日まで公募している。有識者によって選定される次年度の修理の状況についても、引き続き取材を進める。
また、原材料の生産現場をめぐる現状や、修理技術者がいかに文化財と向き合い、調査結果から修理方針を固めていくなどの試行錯誤の過程も引き続き伝えていく。
修理方針を決めるための検討会が開かれた。
記事はこちら → 国宝「普賢菩薩」修理方針の検討会開かれる
表具から本紙を切り出す作業が行われた。
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彫刻の中に収められていた経典の修理。細く巻いて金属製のかすがいで打ち止められていたため、蒸気を当てながら丁寧に開く作業が行われた。
記事はこちら → 高野山金剛峯寺 像内から発見の経典 修理方針を確認
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