2019年4月から3年間の計画で修理がスタートした、京都・知恩院所蔵の国宝「阿弥陀二十五菩薩来迎図」(早来迎)。熟練の腕で驚くほど入念な作業が重ねられている。初年度の修理の歩みを写真とともに紹介する。
1934年以来、85年ぶりとなる修理のために、京都国立博物館(京都市)の文化財保存修理所に搬入。修理を担う「光影堂」(同市)の小島知英・技師長らが絵を壁に掛けて状態を確認した。
汚れなどで背景が黒っぽく沈んで見えた。小島技師長は「技法が細かく素晴らしい絵画。修理すべき時期が来ている」と実感した。詳しくはこちら。
絵は絹に顔料で描かれ、裏側に「裏打紙」と呼ばれる5層の和紙が貼られている。
赤外線撮影などの調査で、絹が欠失している箇所を詳細に記録した。
阿弥陀如来の頬の辺りは、絹が失われ、和紙の上から後世に彩色が加えられていた。絹の欠損部には、絹を補う作業が必要になる。詳しくはこちら。
本格的な修理が始まった。小島技師長が掛け軸の表具と絵の隙間に刃物を入れ、慎重に絵を切り出した。「絵のすぐそばに刃物を入れるので緊張しました」と小島技師長。詳しくはこちら。
鉱物などを原料とする顔料は接着力が弱まるため、水でにかわを溶いた液を塗って顔料を固定。水で汚れを除去するクリーニングの作業後、再び剥落止めを約1か月実施。顔料の種類や状態が異なるため、技術者の豊富な経験が必要だ。
絵の表面に霧吹きで水が吹きかけられた。この水は、鉄分などを取り除いた濾過水。絵の下には吸い取り紙が敷かれ、表面の汚れが染みこむ仕組みだ。
本格的な剥落止めに進む前段階。除去した大量の汚れが、雲や花など白く彩色された部分を黒ずませる危険も伴うため、細心の注意を払う。作業後は画面全体の明度が上がり、背景の木々や波の表現も鮮やかになった。
修理では、表具を新たに仕立て直す。20年3月には知恩院の関係者らが、絵の周囲を彩る織物「表装裂(中廻し)」の色や図柄を決め、ハスの文様を選んだ。
4月以降は、裏打紙のうち、絹のすぐ裏側にある「肌裏紙」などを取り除く作業が進む。「肌裏紙」は、前回修理でも取り換えられておらず、繊維状になっている部分が多い。和紙を水でしめらせ、ピンセットでほぐして取り除くという根気のいる作業が続く。
小島技師長は「ここからが修理のメイン。丁寧に、慎重に作業を進めたい」と語る。
知恩院の前田昌信執事は「『早来迎』は法然上人の教えを分かりやすく表現した浄土宗の原点ともいえる絵だけに、修理に期待している」と話した。
(2020年5月3日付読売新聞朝刊より掲載)
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