新型コロナウイルスの感染拡大防止のため歌舞伎や文楽、能などの公演中止が続く中、舞台映像や演じ手によるトーク動画などを、無料でインターネット上に流す取り組みが広がっている。「難しそう」と思われがちな伝統芸能をより多くの人に知ってもらいたいと企画されている。「STAY HOME ウチで過ごそう」が呼びかけられる今年のゴールデンウィーク。自宅で奥深い芸能の世界に触れてみるのはいかがだろう。
国立劇場は、歌舞伎(4月30日まで)に続いて、大阪・国立文楽劇場でこれまでに上演した「仮名手本忠臣蔵」の公演の映像の配信を始めた(6月1日正午まで)。第一部は大序から、塩谷判官が切腹して城を明け渡す四段目まで、第二部は判官の家来の早野勘平と妻・お軽の悲劇を描いた五段目から七段目まで、第三部は討ち入りなどを描く八段目から十一段目まで。いずれもダイジェスト版で、国立劇場の公式チャンネルで見ることができる。
また、資料展示室で上映していた映像コンテンツの配信も行っている。いずれも期間限定となっている。「舞台の上で生きる女方」では、「壇浦兜軍記」の傾城・阿古屋が取り調べで琴を弾かされる場面や、「曽根崎心中」で遊女・お初が心中を決意する場面など、様々な女形の名シーンをダイジェストで見ることができ、人形の衣裳や髪形、しぐさの違いなどを楽しむことができる。
政府によるイベントの自粛要請が行われた2月下旬から、いち早く動画配信に動き出したのは、能楽大蔵流狂言方の茂山千五郎家。3月1日にYouTubeのライブ中継機能を使い、公式チャンネル「clubsoja」で、茂山七五三さんや千五郎さん、宗彦さんらが「鬼瓦」「那須語」「蝸牛」などを上演した。
演じ終わった狂言師らが作品や見どころを解説したり、視聴者のリクエストに応じた演目を即興で演じたりなど、約3時間近くにわたり稽古場から配信した。これまでに5回の中継を行っており、視聴数は計2万件を超えた。
中心になって運営している茂山茂さんは、コンピューター関連の専門学校出身。茂さんは、「劇場がない地域や海外に住んでいる方からも感想をいただくなど、反響の大きさに驚いている。狂言師というと堅苦しいイメージを持たれるかもしれないが、ご覧いただくとわかるように、アットホームに僕ら自身も楽しみながらやっている。コメディーでもある狂言で元気になっていただきたい」と話す。今後は、離れた場所にいる狂言師同士を中継でつなぎ、狂言を成り立たせる「リモート狂言」のようなものができないかなど、新たなことにもチャレンジしたいという。
横浜能楽堂は、4月14日から、過去の公演をYouTubeの「横浜能楽堂ユーチューブチャンネル」で公開している。より多くの人に少しでも古典芸能に触れる機会を持ってほしいという、長唄三味線の人間国宝・今藤政太郎さんからの提案を受けてのことといい、今藤さんが出演する長唄「鷺娘」や、能楽堂を能楽師が案内したワークショップの映像などを配信。能楽大蔵流狂言方の人間国宝・山本東次郎さんによる子ども向けの解説などもあり、能楽の世界に触れることができる。 「素晴らしい演奏を見られて元気が出た」など、これまでに感謝のメールが送られてきているという。
能楽小鼓方の人間国宝・大倉源次郎さんは、自らのYouTubeチャンネル「源次郎ちゃんねる~華通信~」で、小鼓の組み方や歴史などを解説しているほか、稽古の様子も公開している。親子ながら厳しい師弟関係が垣間見え、脈々と受け継がれていく伝統芸能の世界を体感できる興味深い内容になっている。
また演芸の世界でも、人気の落語家・春風亭一之輔さんや講談師の神田伯山さんが公式のYouTubeチャンネルで芸を披露しており、寄席へ足を運べないファンを中心に注目を集めている。
(読売新聞紡ぐプロジェクト事務局 沢野未来)
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