2019.9.25

【大人の教養・日本美術の時間】屏風はどうやって数える?

彭城百川 梅図屏風(上が右隻、下が左隻) 江戸時代 泉屋博古館

日本美術には数多くの屏風びょうぶの名品があります。金箔きんぱくがきらめく華やかな屏風、墨一色で山水画を描いた風流な屏風など、めくるめく美の世界。でも、日常生活で屏風を見ることはめったにありませんよね。結婚式の「金屛風」、おひなさまの後ろに置く小さな「ひな屏風」くらいでしょうか。お茶をされている方は、お茶室に置く二つ折りの「風炉先ふろさき屏風」にも親しみがあるかもしれません。

それ以外で屏風を見るのは、もっぱら美術館のガラスケースのなかです。でも、実はかつて、屏風は暮らしに溶け込む、とっても便利な「家具」だったのです。

屏風が大陸から日本に伝わったのは飛鳥時代のこと。初めは宮廷や寺院で使われていました。そして平安時代になると、貴族の邸宅には欠かせないものとなります。

屏風の語源は、「風をふせぐ」という意味。風通しの良い寝殿づくりの室内に屛風を置けば、文字通り「風よけ」になります。「間仕切り」としても重宝ですし、着替えをする時には「目隠し」にも。また美しい絵が描かれた屛風自体が「室内装飾」として、住む人や来客の目を楽しませました。

美術館の屏風は、どのように置いてあるでしょう? きれいにジグザグになるように立ててありますね。でも実は、前にも後ろにも自由に折り畳むことができるので、置き方はもっと色々楽しめます。コの字形に立てることだってできるのです。平安時代の貴族も戦国時代の大名も、置く場所や用途によって置き方を変えたのでしょう。

なんと、お花見でも使われたようです。屋外に屏風を持ち出し、満開の桜のそばに置いて、身分の高い人々がその前で宴会を楽しむ様子を描いた絵が伝わっています。

(鮫島圭代筆)

美術館で屏風を見るとき、解説パネルに作品名と並んで「六曲ろっきょく一双いっそう」と書いてあることがよくあります。どんな意味でしょう?

これは、「その屏風がいくつに折れ曲がっていて、何個あるのか」という形状を示しています。

屏風の各部位の数え方は独特で、知っていると美術通を気取れますよ。ご紹介しましょう。

屏風は、細長い長方形のパネルを横につなげてできていますね。このパネルを「せん」と呼びます。それぞれのパネルを指すときには、右端の扇が「第一扇」、2番目が「第二扇」、3番目が「第三扇」……という具合。

そして、扇を偶数枚つなげて屏風にしたものを「きょく」といいます。

二つの扇をつなげたものは「二曲」、四つの扇をつなげたものは「四曲」、六つの扇をつなげたものは「六曲」、八つの扇をつなげたものは「八曲」と呼ばれます。

(鮫島圭代筆)

ここまでくれば、「六曲一双」の意味はもうおわかりですね。「六つの扇をつなげた六つ折りの屏風が二つあり、左右のペアになっている」ということです。

右側に置く屏風は「右隻うせき」、左側は「左隻させき」と呼びます。

そのほか、「六曲一隻いっせき」と呼ばれる屏風もあります。「隻」とは「ペアのかたわれ」と言う意味。つまり、二つ一組になっておらず、六曲ひとつだけの屏風のことです。

屏風が便利な家具である理由は、前にも後ろにも折り曲げられて、自立式で置けること。そして、折り畳んで持ち運べることです。一体、どうやって作られているのでしょう。一般的な構造をご紹介します。

  1. 木の棒を細長い枠と格子状に組み立てて、細長い長方形のパネル「扇」の骨組みを作ります。
  2. 扇の骨組みに糊をつけて、大判の和紙を貼ります。
  3. 横長の和紙を、少しずつずらしながら何枚も貼り重ねます。和紙で厚い層をつくることで、骨組みの硬さが表に響かなくなります。
  4. 大判の和紙の全体にのりをつけ、3. を押さえるように貼り、表面を平らにします。
  5. A4判程度の和紙の端に糊をつけ、袋状に貼ります。(このように何枚も和紙を貼り重ねて完成した屏風は、湿度の高い日には和紙が湿気を吸い、乾燥している日には湿気を放出してくれるので、反ったりゆがんだりしにくく、表面の絵がピンと張った美しい状態を保ち、破れにくくなります)。
  6. 一番表面に貼る本紙には、絵などを描き、裏打ちをしておきます。そして、5. の上に貼ります。
  7. こうしてできた扇を、紙製の蝶番ちょうつがいで横につなげて屏風にします。蝶番は扇の側面にはつけず、扇の前か後ろの面に互い違いになるように貼り付けます。だから、前にも後ろにも自在に動かすことができるのですね。
紅梅は天へ、白梅は地へ

最後に、京都・泉屋博古館に所蔵されている六曲一双の屏風=上の写真=をご覧あれ!

江戸時代中期の文人画家、彭城さかき百川ひゃくせんが描いた「梅図屏風うめずびょうぶ」です。百川は、中国の元や明の時代の絵画の影響を強く受けた「南画なんが」の先駆者のひとり。紅梅は天へ、白梅は地へと枝を伸ばし、宇宙を抱くかのような雄大さを感じさせます。表情豊かな筆づかいで、文人の理想とされるりんとした梅の生命力を表しています。

この作品は、泉屋博古館(京都)で10月末から開催される「花と鳥の四季―住友コレクションの花鳥画」展でご覧いただけます。ぜひ、本物を見にお出かけください。

そして、京都と東京の泉屋博古館では9月上旬から「住友財団修復助成30年記念 文化財よ、永遠に」展が開催中です。この展覧会では、文化財の修復を長年行ってきた住友財団の文化財維持修復事業助成の成果を紹介し、修復によって、かつての姿がよみがえった名品を展示しています。こちらもお見逃しなく!

【「花と鳥の四季 ―住友コレクションの花鳥画 」展】
  • 泉屋博古館(京都)2019年10月26日(土)~12月8日(日)

※「花と鳥の四季」展、 「住友財団修復助成30年記念 文化財よ、永遠に」展 についての詳細は、泉屋博古館サイト

鮫島圭代

プロフィール

美術ライター、翻訳家、水墨画家

鮫島圭代

学習院大学美学美術史学専攻卒。英国カンバーウェル美術大学留学。美術展の音声ガイド制作に多数携わり、美術品解説および美術展紹介の記事・コラムの執筆、展覧会図録・美術書の翻訳を手がける。また水墨画の個展やパフォーマンスを国内外で行い、都内で墨絵教室を主宰。https://www.tamayosamejima.com/

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