<日常生活の俗事の中にある美への崇拝に基づく儀式>
明治末期の1906年、日本美術の発展に尽くした岡倉天心は、英語で刊行した「茶の本」で茶の湯の精神をこう紹介した。欧州各国でも訳され、日本人の美意識が広く知られるきっかけとなった。以来、茶の湯は和を代表する文化として、外交の舞台を彩ってきた。
9月に96歳で亡くなった英国のエリザベス女王は1975年5月、京都・桂離宮を訪れ、
83年に来日したレーガン米大統領夫妻を中曽根康弘首相が東京・日の出町に所有していた山荘に招き、自ら茶を
日本が世界に誇る茶の湯だが、近年、茶道人口の減少とともに、高齢化が顕著になっている。茶をたしなむ人はこの四半世紀で、70歳以上が1割から3割に増えたのに対し、10~40歳代は6割から4割に減った。
若者に親しんでもらおうと力を入れる自治体もある。京都市は今年度、茶道教室の師範らが講師となり、市内の全小学校で茶道を体験してもらう事業を始めた。千利休を生んだ堺市では今年度、コロナ禍で
◆海外にも広がる精神
茶の湯は明治以降、国際的な広がりを見せる。裏千家十一代家元の玄々斎は明治5年(1872年)の京都博覧会に際し、海外の人にもイスとテーブルで茶を楽しんでもらう「立礼 」というスタイルを考案。戦後は各流派が海外に支部や協会を作り、裏千家では昨年4月現在、世界37か国・地域の112か所に上る。
海外での展開に一役買ったのは、わび茶の「見立て」という精神だ。千利休は、井戸で水をくむつるべを水指 として使うなど、本来は茶道具ではない日用品も、美意識にかなえば茶に用いた。どこでも誰でも工夫次第で茶を楽しむことができ、茶の湯の豊かさを表すものでもある。
9月下旬、東京都内に設けられた茶室に、30歳前後の起業家3人が集まった。月1回、計10回の予定で茶の湯の精神や作法を学ぶプログラムで、この日のテーマは「火・炭・灰」。講師が火をおこす様子を見ながら、茶会の亭主は1か月も前から炭を洗ったり、天日干ししたりすることを教わった。
企画するのは茶道家の岩本涼さん(25)だ。小学生の頃からお茶の稽古に通った岩本さんは4年前、大学在学中に茶葉の生産、商品の開発・販売を行う会社を起業。そして昨年末から会社の事業として、プログラムを始めた。一
松下幸之助や阪急電鉄を創業した小林一三ら、茶の湯をたしなんだ経営者は少なくないが、今の時代、若いビジネスマンの間でも関心が高まっているという。プログラムは数十人が受講。岩本さんは「忙しい中でも立ち止まって自分を見つめ直す時間になっている」と語る。新たな発想や視点が生まれてくると感じる人は多いという。
◇ ◇ ◇
茶の湯の精神は「和敬清寂」の4文字に集約される。和やかな心、敬い合う心、清らかな心、動じない心――。400年以上、利休の茶を伝えてきた
三千家の一つ、武者小路千家の家元後嗣、千宗屋さん(46)はその本質を「自分と向き合い、相手の身になって考えるというシンプルなこと」とみる。「自分さえよければいいという自己完結的な時代だからこそ、もっと必要とされるべきものではないか」
茶の湯の心は、時を超えて息づいている。
茶碗の外側に上薬が流し掛けられ、その余白に緑や青、金彩で三角の
明治以降、茶の湯を楽しみ、茶道具を収集する財界人が増え、近代
(2022年10月4日付 読売新聞朝刊より)
特別展「京に生きる文化 茶の湯」
(京都国立博物館)
公式サイトはこちらから
0%