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2022.11.24

【魅せられて 茶の湯と私3】「信長役 お茶を点て舞台へ」 OSK日本歌劇団元トップスター 桜花昇ぼるさん

桜花昇ぼるさん

OSK日本歌劇団に在籍していた時から、織田信長や高山右近ら、茶の湯とゆかりが深い戦国武将の役を多く演じてきました。それを機にお茶の魅力を知り、所作を教わりに行ったり、本を読んだりと自分なりに学んで舞台に臨んできました。

2011年に信長を演じた時のこと。千利休とのつながりが舞台で描かれており、ファンから茶道具一式をプレゼントしていただきました。「信長の血を自分の中に流したい」という思いで、公演中は毎朝、抹茶を飲む習慣をつけました。

楽屋でメイクをする前にお茶をててゆったりと味わい、舞台に向かいました。バタバタと毎日を送る中で忘れていたゆとりの時間が流れました。信長の愛した緑色の抹茶が、彼の赤い血へとつながっていくよう――。茶の不思議な力を実感しました。

血で血を洗うような戦いを繰り広げた武将たちが茶の湯を愛したのは、自分の心と向き合い、一杯の茶に安らぎを得たかったからだという気がします。

茶の湯に欠かせない道具に「真田ひも」があります。茶道具を入れる桐箱きりばこにかける紐として使われます。関ヶ原の戦いに敗れた後、真田幸村が父の昌幸と共に、10年以上蟄居ちっきょした和歌山県九度山町で、紐を織って生計を立てたという説があります。

幸村の役は07年から継続的に演じていて、特別な思い入れがあるんです。演じ始めた頃は、OSKが経営危機に陥った時期でしたが、団員は真田紐のように固い絆で結束し、つらい時期を乗り越えました。茶をたしなむ時に真田紐を目にするたび、「多くの人に支えてもらって、今がある」としみじみ感じます。

お茶との奇縁を感じながら、京都国立博物館の特別展「みやこに生きる文化 茶の湯」を見に行きました。幸村が仕えた豊臣秀吉が使ったとされる茶道具も並んでおり、幸村も触れたかもしれないと想像が膨らみました。武将たちの茶の湯への愛着に思いをはせ、彼らの心の部分もしっかりと演じていきたい。そんな気持ちを新たにしました。

(聞き手・青木さやか)

桜花昇ぼる(おうか・のぼる) 奈良県斑鳩町出身。1993年にOSK日本歌劇団に入団。2008年、トップスターに就任した。14年の退団後も関西を拠点に舞台で活躍し、大阪城や長野県上田市など、全国各地にある真田幸村のゆかりの地で公演を続ける。旭堂南桜の名で講談師としても活動する。

(2022年11月7日付 読売新聞夕刊より)

 

特別展「京に生きる文化 茶の湯」
(京都国立博物館)
公式サイトはこちらから

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