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2023.7.4

【皇室の美】酒井抱一筆「花鳥十二ヶ月図」 やわらかな線 凛とした美

酒井抱一筆「花鳥十二ヶ月図」
(右から)五月、六月、七月、八月
※展示はいずれも7月8日~8月2日

宮内庁三の丸尚蔵館は、皇居東御苑(東京都千代田区)で建て替えを進めている。この間、収蔵品を各地の博物館、美術館で2021年度から展示している。23年度は、秋田県立近代美術館が7月8日から開幕、岡山県立美術館(7月15日~8月27日)、茨城県陶芸美術館(9月16日~12月10日)、石川県立美術館・国立工芸館(10月14日~11月26日)でも展覧会を開催する予定だ。各展の注目作を三の丸尚蔵館研究官による寄稿で紹介する。

掛け軸や屏風びょうぶなど12図で1組のいわゆる十二ヶ月花鳥図は、酒井抱一さかいほういつ(1761~1828年)の作品だけでも、当館収蔵の1組をはじめ、6組以上が知られている。なかでも本作「花鳥十二ヶ月図」は最終幅に「文政癸未みずのとひつじ年」と款記かんきがあり、晩年の文政6年(1823年)の作品とわかる。

一月と二月のように隣り合う2図で1組にみえる構図は、もとは屏風に貼りこんで仕立てられた押絵貼屏風であったためで、2か月分だけを広げても使用が可能だったのだろう。

ただし、掛け軸となった現状では、中央の五月から八月の4幅で、本紙周りの表具が他の8幅とは文様が異なり、丈も長い。明治43年(1910年)に宮内省が明治宮殿の装飾用品として個人から買い上げた時点で現在の形になっており、それ以前に何らかの事情でこのように仕立てられたのだが、詳細は不明である。

なお、皇室にもたらされた古美術の名品は、京都御所から引き継がれたものだけでなく、明治時代の献上や買い上げによるものも多く、本作もその一例だ。

今回、秋田県立近代美術館で紹介するのは、この五月から八月までの4幅で、それぞれ余白を十分にとり、墨に緑青をにじませる落ち着いた色合いで葉や茎を、あるいは墨で鳥を描く。色数が少ないながらも華やかな印象の色味で、燕子花かきつばた立葵たちあおい紫陽花あじさい、朝顔、芙蓉ふようはぎなどの花を描き、やわらかな筆遣いのなかにもりんとした美しさがある。

姫路藩主酒井家で江戸の藩邸に生まれ、37歳で出家して自由に絵筆をふるう生活を送った抱一は、若い頃から狂歌と俳諧をたしなんだ。初期には肉筆浮世絵も手がけ、諸派の画風も学んだが、やがて時代を100年遡る尾形光琳おがたこうりんに傾倒し、その顕彰にも努めた。「江戸琳派」と称する抱一の瀟洒しょうしゃな作風は、多くの門弟が受け継ぎ、近代以降も現代にいたるまで愛され続けている。

紹介する4幅は、初夏から初秋にかけての風物をとおして、軽やかで洒落しゃれた江戸の文化を感じることのできる作品で、そうした抱一の作風を存分に味わえるものである。

(宮内庁三の丸尚蔵館学芸室主任研究官 清水緑)

◇皇室の名宝と秋田 ~三の丸尚蔵館 収蔵品展~

会期】7月8日(土)~9月3日(日)
会場】秋田県立近代美術館(秋田県横手市)
主催】皇室の名宝と秋田実行委員会(秋田県立近代美術館・ABS秋田放送)、宮内庁
共催】秋田魁新報社
特別協力】文化庁、紡ぐプロジェクト、読売新聞社
問い合わせ】0182・33・8855

(2023年7月2日付 読売新聞朝刊より)

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