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2024.9.10

【工芸の郷から】山鹿灯籠 — 神事奉納品として発展(熊本県山鹿市)

山鹿やまが灯籠」は手き和紙とのりだけで作られるため、骨組みがない。毎年8月に熊本県山鹿市で開かれる「山鹿灯籠まつり」で、浴衣姿で踊る千人の女性が頭に載せる「かな灯籠」が代表的だ。

山鹿灯籠を代表する「金灯籠」

その上部に飾る擬宝珠ぎぼしは、6枚の和紙を貼り合わせる。曲線部分にはのりしろがなく、厚さ0・2ミリほどの断面同士をのりづけする。ここに、灯籠師の技術の高さがうかがえる。

和紙の断面を貼り合わせて擬宝珠を作る

祭りでは、町内会や企業などが発注した灯籠約30基が地元の大宮神社に奉納される。熊本城や金閣寺、飛行機、鉄道車両と多彩な作品が並ぶ。一見すると模型のようだが、実物の正確な縮尺ではなく、立体感を演出するために独自の寸法で作られている。

市内の「中村制作所」では、灯籠師の中村潤弥さん(35)が「通潤橋つうじゅんきょう」(熊本県山都町)を作っていた。江戸時代末期に完成した石造アーチ水路橋で昨年、土木建造物として初めて国宝に指定された。作品は幅約120センチ、高さと奥行きが約40センチだが、重さは1キロに満たない。

国宝「通潤橋」をモチーフにした作品を説明する中村潤弥さん(熊本県山鹿市で)

中村さんは、中学時代の体験授業をきっかけに灯籠師を志した。8年間の修業を経て2017年に独立。奉納する灯籠以外にも「天空の城ラピュタ」や「ワンピース」の海賊船など、斬新なテーマで作ってきた。

山鹿灯籠の起源は諸説あるが、盛んになったのは豊前街道の宿場町として栄えた江戸時代。当時「旦那衆」と呼ばれた実業家たちがスポンサーとなって職人たちの技が競われ、神事の奉納品として発展してきた。現在は7人の灯籠師が技を受け継ぐ。

山鹿灯籠振興会は15年から、現代のライフスタイルにあった新商品を開発。擬宝珠にアロマオイルが染みて香りが拡散する「アロマディフューザー」は好評で、年間500個以上を売り上げる。制作体験キットも人気で、小学校や企業のワークショップで使われている。

擬宝珠を用いたアロマディフューザー

中村さんは「伝統を守りながらも、見る人や自分もワクワクするものを作り続けたい」と語る。

(西部文化部 井上裕介、写真も)

(2024年7月24日付 読売新聞朝刊より)

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