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2024.8.20

空海の曼荼羅「紫根」で染色 ― 230年ぶり修理 東博で公開中

特別展「神護寺―空海と真言密教のはじまり」(東京国立博物館)

国宝「両界曼荼羅(高雄曼荼羅)」(左)金剛界、(右)胎蔵界、部分
平安時代・9世紀 京都・神護寺蔵 ※胎蔵界の展示は終了。金剛界は9月8日まで展示

弘法大師・空海(774~835年)が制作に関わった現存唯一の「両界曼荼羅まんだら(高雄曼荼羅)」(国宝)。全体を紫色に染めた染料は、京都国立博物館(京都市東山区)や宮内庁正倉院事務所(奈良市雑司町)などの調査で、多年草ムラサキの根「紫根しこん」と特定された。

今年〔2024年〕、創建1200年を迎える神護寺(京都市右京区)が所蔵する高雄曼荼羅は、胎蔵界、金剛界の2幅(各縦横約4メートル)。紫色のあや織りの絹地に金銀泥で諸仏や諸菩薩ぼさつを描く。今回、約230年ぶりの修理に合わせて綿密に調査した。

約230年ぶりの修理を終えて営まれた高雄曼荼羅の開眼法要(2023年5月、京都市右京区の神護寺で)

修理は「岡墨光堂」(京都市中京区)が担当した。その過程で、京博の降幡順子・保存科学室長は、光の波長で物質を特定する科学的な分析を行い、紫色が紫根に由来する可能性を指摘した。

さらに、正倉院事務所の中村力也・保存課長は、修理以前に落下して保存されていた曼荼羅の繊維片を、色素を分離できる技法「クロマトグラフィー」で分析した。日本や中国に分布するこう紫根の色素「シコニン」の抽出に成功し、染料を「紫根」と確定させた。

調査に用いた高雄曼荼羅の繊維片=岡墨光堂提供

紫根で濃い紫色に染めた「深紫こきむらさき」は、古代の代表的な色彩だ。高価なため、平安時代には朝廷から使用を制限する禁令が出たという。

寺の由来をつづる「神護寺略記」には、高雄曼荼羅が淳和天皇の願いで制作されたと記されている。京博の大原嘉豊・教育室長(仏画)は「これほど高価な染料を大量に動かせるのは朝廷以外に考えにくい。天皇が制作を依頼したという記述を裏付ける」と指摘する。

高雄曼荼羅は、9月8日まで東京国立博物館(東京都台東区)で開催中の特別展「神護寺―空海と真言密教のはじまり」(読売新聞社など主催)で公開されている。

(2024年8月17日付 読売新聞朝刊より)

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