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2023.12.6

【皇室ゆかりの品々 次代へ・一】皇居三の丸尚蔵館 新たなスタート

開館記念展「皇室のみやび―受け継ぐ美―」開催中

国宝「動植綵絵どうしょくさいえ」 伊藤若冲じゃくちゅう 〔2023年〕11月6日、皇居三の丸尚蔵館で=青山謙太郎撮影

皇室は1000年以上もの間、みずからが和歌や書などの「作り手」となって時代の文化を育むとともに、貴重な文化財を守り、継承する役割を担ってきた。収集の歴史は古く、奈良時代、聖武天皇ゆかりの品々を納めた正倉院宝物にさかのぼる。紙や絹など脆弱ぜいじゃくな素材で作られたものが、今に伝えられている例は世界でも珍しい。皇室ゆかりの品々を収蔵する「三の丸尚蔵館」が、宮内庁から国立文化財機構に移管され、新しい施設でオープンした。開館記念展「皇室のみやび―受け継ぐ美―」を来年〔2024年〕6月まで4期に分けて開催、国宝はじめ皇室が守り伝えた日本の美を紹介する。

「令和の御代を迎えて―天皇皇后両陛下が歩まれた30年」前期に展示した
「令和度 悠紀地方風俗歌屏風ゆきちほうふぞくうたびょうぶ」 和歌:篠弘 絵:田渕俊夫

皇室寄贈品を収蔵 開館30年機に刷新

三の丸尚蔵館は、上皇陛下と香淳皇后が、昭和天皇まで代々、皇室が継承してきた御物(皇室の所蔵品)絵画・工芸品などを国に寄贈したのが設立のきっかけとなった。さらに研究を進め、一般に広く公開するための施設として1993年に「宮内庁三の丸尚蔵館」を開設した。

皇室は、幕末から明治期にかけての混乱期には貴重な文化財が散逸するのを防ぐ役割も果たしてきた。収蔵品は香淳皇后の遺品、秩父宮家や高松宮家の遺贈品などが加わり、日本、東洋の美術工芸品など時代や地域、分野など幅広い分野にわたっているのが特長だ。

2019年から新施設の建設が始まり、この秋、管理運営を宮内庁から文化庁所管の独立行政法人「国立文化財機構」へ移管し「皇居三の丸尚蔵館」と改称した。施設の一部が完成したことから、開館30年の節目である今年〔2023年〕11月3日に新たに開館した。

皇居東御苑の緑の中にたたずむ

朝賀浩副館長は「長期間にわたって休館のままというのは、当館に期待を寄せてくれている多くの方々をお待たせすることになる。皇居の中で皇室ゆかりの優れた美術品をご覧いただきたいという思いから、可能な範囲で展示を再開した」と、本来の半分の展示スペースで展覧会開催に踏み切った理由を説明する。26年度には全面開館を目指している。

三の丸尚蔵館が収蔵する美術品は宮内庁によって十分に保護されているため、これまでは国宝、重要文化財に指定していなかった。18年に宮内庁の有識者懇談会が「国宝や重要文化財の指定を含め、貴重な作品の美術史的、歴史的、学術的な価値をわかりやすく表示する」よう提言し、21年に「春日権現験記絵かすがごんげんげんきえ」など5件が国宝に指定された。

展示室入り口に続く廊下

皇居三の丸尚蔵館とは

1993年、宮内庁三の丸尚蔵館として皇居東御苑に開館した。絵画、書、工芸品など国宝8件、重要文化財3件を含む約6100件(約2万点)を収蔵する。「宮廷文化の華」をはじめ、30年間にわたって展覧会を100回以上、入場無料で開催してきた。2026年に館施設が完成すると、展示スペースは約1300平方メートルと現在の倍近くになる。

 

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皇居三の丸尚蔵館 島谷弘幸館長(70)
(国立文化財機構理事長)

島谷弘幸館長
予約制 作品と向き合う時間

宮内庁から国立文化財機構に運営を移管し、東京、京都、奈良、九州に並ぶ5番目の国立博物館となった。

館長はじめ研究職は20人。国立博物館では、東京国立博物館に次ぐ体制だ。収蔵品は皇室に寄贈されたものに加えて、今後はゆかりの品などの購入も考える。世界の王室との交流、国内の博物館、美術館との連携など、これまでの館のテリトリーを超えた展覧会を企画したい。皇室が貴重な文化財を守ってきた役割を伝える必要もある。

ただ、開館記念展からしばらくは展示スペースのうち半分しか使えない。たいへんなところに来てしまったが、かえってやりがいがある。

2026年度のフルオープン後も展覧会は原則として予約制としたい。作品とじっくり向き合って楽しんでほしいからだ。国宝、重要文化財などなじみのある作品から入って、さらに自分の好きな作品を見つける。私の専門分野である書にも美術品としての魅力を感じていただければと願う。美を感性で感じ、皇居の緑の中でリフレッシュできる憩いの場として通ってほしい。

展覧会を有料としたのは、公開のための費用と理解してほしい。傷み、劣化をおそれて公開しなければ、文化財は存在すら忘れ去られてしまう。

韓国は文化財の保存・管理などを担当する文化財庁を設置し、日本の文化庁の倍近い予算を計上している、と聞いてびっくりした。日本も文化にかける予算がもっと必要だ。文化財は、時の政府が必要と考えて予算をあてて、保存、継承されてきた歴史を忘れてはならない。

しまたに・ひろゆき 1953年岡山県生まれ。76年東京教育大学教育学部芸術学科書専攻卒。84年東京国立博物館に勤務。学芸研究部長、副館長を経て、2015年九州国立博物館長。21年国立文化財機構理事長兼務。23年10月から国立文化財機構理事長兼皇居三の丸尚蔵館長。

 

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入館料有料化「維持運営に」 

開館記念展からは、これまで無料だった入館料を一般1000円、大学生500円とした。

博物館法は「公立博物館は、入館料その他博物館資料の利用に対する対価を徴収してはならない」と規定する。ただ、「博物館の維持運営のためやむを得ない事情のある場合」を例外規定としている。

文化財を将来にわたって保存、活用していくには適切な維持管理と、定期的な修理が欠かせない。「入館料は維持運営の費用にあてる」と朝賀副館長は理解を求める。

一方で、観覧には新たに事前予約制を採用した。「再開館ということもあり、かなりの混雑を見込んだ。混雑緩和と安全確保を重視しての措置」(朝賀副館長)とゆっくりと鑑賞できるようとの配慮だ。写真撮影も原則自由とする。今後も入館方法の対応策は柔軟に検討していくという。

予約は https://shozokan.nich.go.jp/

デジタル高精細画像で作品の細部を見られるようにした

所蔵品統合検索システムと連携 資料、画像の利用容易に

三の丸尚蔵館は、国立文化財機構が運営する所蔵品統合検索システム「ColBase(コルベース)」との連携を進めている。

コルベースは、東京、京都、奈良、九州国立博物館と奈良文化財研究所の所蔵品を横断的に検索できるシステムで、約13万3000の資料をデジタルデータとして、インターネット上に公開している。接続環境があれば、作品の画像などを商業利用を含め無料でダウンロードして利用できる。

三の丸尚蔵館収蔵の作品は国宝8件、重要文化財3件などで、今後、徐々に充実させていく考えだ。

コルベースのホームページアドレスは https://colbase.nich.go.jp/

(2023年12月3日付 読売新聞朝刊より)

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