世界遺産・古都奈良の象徴としてたたずむ興福寺の国宝・五重塔が、〔2023年〕7月から約120年ぶりの大規模修理に入る。地震、台風などの天災や、明治維新、第2次世界大戦など時代の波をくぐり抜け、600年近く日本独自の美を伝えてきた姿は、しばらく見られなくなる。同じく修理にとりかかった山形・羽黒山、山口・瑠璃光寺、台風被害から復活した奈良・室生寺の五重塔と併せて紹介する。
1998年9月の台風7号の強風による倒木で被害を受けた。檜皮ぶき屋根が落ちかけた痛ましい姿は全国に衝撃を与えた。
「幸いにも心柱をはじめ塔自体は全く傾いておらず、思いのほか“軽傷”だったと聞いている。倒木が別の木を伝い、塔からそれながら倒れたためだ」と同寺の山岡淳雄・教化広報執事(41)は話す。
一番上の五層目と四層目の屋根は解体し、比較的傷みが小さかった二、三層目はジャッキアップして修理。屋根に使用する檜皮は境内のヒノキから集めた。修理に要した費用は約1億5000万円。
平安時代初期の建立で高さは約16メートル。興福寺五重塔の約3分の1、屋外の国宝、重要文化財の五重塔では最も小さい。約2年という早さで優美な屋根がよみがえり、2000年10月に落慶法要を行っている。
(2023年6月4日付 読売新聞朝刊より)
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