世界遺産・古都奈良の象徴としてたたずむ興福寺の国宝・五重塔が、〔2023年〕7月から約120年ぶりの大規模修理に入る。地震、台風などの天災や、明治維新、第2次世界大戦など時代の波をくぐり抜け、600年近く日本独自の美を伝えてきた姿は、しばらく見られなくなる。同じく修理にとりかかった山形・羽黒山、山口・瑠璃光寺、台風被害から復活した奈良・室生寺の五重塔と併せて紹介する。
平安時代に平将門が創建したと伝えられ、現在の塔は室町時代の再建。高さ約29メートル。明治初期の神仏分離令による混乱で、羽黒山内でも多くの寺院が破壊されたが、五重塔は幸いにも守られた。
2002年の修理後、杉板やその下地などの腐食が進んできたため、5月から
来春再び足場を組み直し、二層と初層の修理を行い、24年9月の修理完了を目指す。総事業費は約1億6000万円。
羽黒山、月山、湯殿山の出羽三山神社の宮野直生宮司(75)は「塔を次の世代へ引き継ぐために必要な保存修理であり、伝統技術を次世代へ継承する大切な場でもある」と強調した。
守護大名の大内義弘を弔うため1442年に建立された。高さ約31メートル。前回の全面ふき替えからは約70年が経過、台風などの被害のたびに部分的に修理したものの、
総事業費は約7億6000万円に及ぶが、国や山口県、市の補助を入れても寺の負担は大きい。五重塔は拝観無料としているため、
今回の修理は、約1年をかける鉄骨造りの素屋根の設置から始まる。しばらくは四方を壁で覆う外観になってしまう。
2026年3月の修理完了を目指す渡邉博志住職(52)は「屋根は傷だらけ。建立以来600年近く守り伝えてきた五重塔を次の世代へ引き継ぐため、多くの皆さまのご理解とご協力をお願いしたい」と語った。
(2023年6月4日付 読売新聞朝刊より)
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