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2023.9.28

歌舞伎、工芸 企業が支援 — 衣装展、トークショー、職人動画、コラボ作品

日本の伝統文化振興に力を注ぐ企業の取り組みが目立つ。キャンペーンなどでも、根底に確たる社会的使命が感じられ、社の特色を生かしたアイデアが光る。(文化部・清川仁)

■ セイコー

ものづくり、食文化など日本文化の魅力を体感してもらう企画「時と日本文化プロジェクト」を今年〔2023年〕から始めた。市川團十郎さんがグループアンバサダーを務めている縁もあり、第1弾は歌舞伎を選定。衣装展やトークショーなどを開催した。

6月は、東京のセイコーハウス銀座ホールで、坂東玉三郎さんが舞台で身につけた衣装10点を展示。春・夏・秋・冬・花の五つのテーマに分けられ、玉三郎さんによる解説ムービーも会場で流された。夏の衣装は涼しげな印象で、季節を先取りして秋の景色も描かれていることなど、妙味を丁寧に紹介。解説や、関連して行われたトークショーの動画はセイコーのサイトで見ることができる。

衣装展に関連したトークショーで語る坂東玉三郎さん(写真・落合直哉)

また、歌舞伎の歴史や所作、音楽の役割などを紹介する「時からの学び」(7月開催)では、市川九団次さんや中村壱太郎かずたろうさんらが実演を交え、知っていればより歌舞伎が楽しめるポイントを分かりやすく伝えた。

https://www.seiko.co.jp/csr/society/community/time_culture/

■ 三菱UFJフィナンシャル・グループ

8月に「MUFG 伝統工芸支援プロジェクト」の取り組みを発表。後継者不足で継承の危機に直面する工芸を支援する社会貢献活動と位置づけ、手始めに同月22~31日、東京・丸の内の本館ロビーで工芸作品の展示を行った。グローバルな金融機関の強みを生かし、9月19~26日には、ラグビーワールドカップが開催中のパリへと巡回した。

パリで開催されたMUFGの工芸展

展示の監修を務めた秋元雄史・東京芸術大名誉教授は、「偏らず工芸の全体像を見てもらいたい」と話す。蒔絵まきえの人間国宝の室瀬和美さんの作品を始め、地域に根ざした地場産業としての工芸品、アート色の強いもの、東海地方の女性グループ「凛九りんく」のメンバーら次世代の作品まで、幅広く展示されている。

■ コーセー

2022年3月から、看板ブランド「コスメデコルテ」のサイト内で、伝統工芸に携わる女性職人にインタビューした動画を公開している。ものづくりの誇りというブランドの理念が工芸と共通しているといい、日本の美しい心を広め、女性活躍社会の実現を目指して企画された。

現在公開されているのは佐賀・唐津の器作家、中里花子さん、京都・西陣織の帯作家、佐竹美都子さんら5人。デコルテ事業部の田嶋浩然ひろのりブランドマーケターは「工芸において女性職人の割合は2割に満たないが、若い方も意外といて面白いじゃないかという印象も持った」と語る。生き生きと仕事のやりがいを語る動画を見れば、業界の明るい兆しも感じられる。

29日には6人目となる九谷焼の職人の動画が公開予定

https://www.decorte.com/site/s/kihintothefuture.aspx

■ 日産×ビームス

子どもに伝統工芸の弟子入り体験をしてもらおうという企画を、日産がセレクトショップのビームスと組んで初めて行った。「てしごトリップ」という新型「セレナ」のキャンペーンだ。ロングドライブを家族で快適に過ごすという同車のニーズから、「各地に出かけ、日本の財産である伝統工芸で家族の思い出を作ってほしい」(日産の村田直哉チーフマーケティングマネージャー)と発想した。

工芸に着目した日産が、各地の工芸品を魅力的に打ち出しているビームスに協力を求めた。7か所の工房は、白河だるま(福島)や京丸うちわ(京都)など、子どもに親しみやすい観点から選ばれ、当選した14組が夏休みに職人から指導を受け、工芸品を完成させた。

作品は、新宿のビームスジャパンの店舗に12日まで展示され、一部は販売。子どもたちが値付けまで行った。ビームスの川上奈津絵クリエイティブプロデューサーは「弊社の強みは、お店に置くという体験を提供できること。それを、うれしいと喜んでもらえて良かった」と話す。

子どもたちが制作し、ビームスジャパンで展示販売された工芸品
■ スターバックスコーヒー

地域ごとの工芸と共同制作したカップなどを販売する「JIMOTO Made」を展開する。商品開発担当者が陶磁器メーカーの職人たちの真剣な姿に心打たれ、同時に産業の衰退に危機感も感じて企画。2015年発売の江戸切子(東京都墨田区)を手始めに、現在は15地域に広がり、なお拡大中だ。

信楽焼のカップ。タヌキのおなかのようなデザインはコーヒーの香りが逃げない効果もあるという

地域に足を運んでほしいという理由から、工芸の地元の数店舗のみで限定販売。商品企画は地域の店舗に任され、工場見学ツアーを開催する地域もある。青森のガラス工芸「津軽びいどろ」の見学ツアー参加者が、後に就職した例もあるという。オリジナル性にもこだわり、砥部焼(愛媛県)は特徴的な青色の文様をカップの底にあしらい、誰かと一緒にコーヒーを飲んだ時に、相手に模様が見える仕掛けになっている。

■ 郵船クルーズ

2022年3月から、大型クルーズ船「飛鳥2」の船内で伝統工芸作品約140点の常設展示と販売を行っている。日本工芸会が、郵船クルーズの主要株主「アンカー・シップ・パートナーズ」と協力した試みで、人間国宝を始め、同会の所属作家約55人の陶芸や漆芸、金工などの作品が、船内のレストランや通路、客室に展示されている。

さらに、今年の日本伝統工芸展では「日本工芸会会員賞 飛鳥クルーズ賞」が創設され、3人の受賞者が決定。受賞者の作品は新たに船内に展示される。

(2023年9月27日付 読売新聞朝刊より)

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